指を折られ、身体には刺青を…2時間で2000万稼いだ女性など 『闇金ウシジマくん』作者が月村了衛に語った驚きのエピソード
何にも代え難い幸せ
月村 真鍋さんは読者から、「こんな酷いことが現実にあるわけないだろう」と言われることはありませんか? 真鍋 ありますね。SNSでエゴサをするとよくそういうコメントを見かけますよ。 月村 私も「警察がこんなに酷いわけない」とかよく言われます。連日報道される警察不祥事等が視界にも入っていない人のなんと多いことか。でも実際、いまの現実は絶望に満ちていますよね。 真鍋 はい。月村さんも同じだと思いますが、僕としては取材など事前の下調べで裏を取ってから描いているつもりです。 月村 仏教界にも、『虚の伽藍』に書かれていない酷い事件がまだまだあります。 真鍋 むしろフィクション以上に酷いことも、現実では起こっていますよね。ウクライナ情勢にガザ情勢はもちろん、政治家や警察の不祥事が連日報じられていますし、不景気や食糧問題など将来の不安も尽きません。 月村 真鍋さんはそんな現実を取材していて、絶望してしまうようなことはありませんか? 真鍋 絶望とまではいきませんが……。『九条の大罪』の「死者の心境」というエピソードは、半グレの壬生が買い取った物件で住人の男性が自殺してしまう場面から始まります。 月村 室内の描写がリアルでした。 真鍋 あのエピソードを描くにあたって、実際にヤクザが所有していて、住人の方が自殺してしまったという物件を見せてもらったんです。どこでどうやって亡くなっていたのかを聞いて、何時間かそこに滞在し、その方がどうして自ら命を絶ってしまったのかを想像して……。 月村 かなり重たい取材だったのではないでしょうか。 真鍋 「死」の恐怖をすごく身近に感じました。暗いところが怖くて、灯りをつけていないと眠れなくなりましたし、テレビをつけっぱなしにしていても、生身の人間の音が聞こえてこないことがどうしても不安に感じられました。 月村 それほど深く、取材対象に入り込んでいかれたのですね。 真鍋 はい。もともと結構入り込むタイプではあるので。どうしても辛い夜には編集者が朝まで飲みに付き合ってくれたりして、なんとか立ち直ることができました。 月村 逆に漫画をお描きになっていて、どういう瞬間に一番喜びを感じますか? 真鍋 「こういうコマを描きたい」と思いついた瞬間でしょうか。そのコマとほかのコマが綺麗にハマってくれたときは気分がいいですね。 月村 特によく描けたとお感じになられているコマはありますか? 真鍋 『闇金ウシジマくん』の「ヤミ金くん」編のラストで丑嶋が泣いているコマは、自分でも気に入っています。月村さんは小説家として生きていくなかで、どの瞬間が楽しいですか? 月村 本ができて、それが評価されたり、文学賞をいただいたりすることももちろん嬉しいです。でも、受賞翌日に何をしているかというと、結局また新しい小説を書いているんですよね。私にとっては、書いている最中こそが、何にも代え難い幸せです。 真鍋 『虚の伽藍』を読んでいても、月村さんご自身がすごく楽しんで書いておられるんだろうなと感じました。 月村 とはいえ、毎日お昼12時~13時頃に起きて、日中は打ち合わせなどをこなし、夕方から翌朝まで執筆して……という生活をずっと続けているので、そこは直したいと常々思っています。生活リズムを正して、真鍋さんのフットワークの軽さを見習わなければなりませんね。 真鍋 いえいえ。僕なんて朝まで飲んで、なぜかパンツ姿になって外で寝ていて、妻に怒られることとかあるんで(笑)。見習っていただくような立派な生活はしてません。 月村 あはは。 真鍋 凌玄のセリフを借りれば、「『生死事大 無常迅速』。命を使うから使命なんや」。月村さんにとっては、お書きになること自体が使命なのでしょうね。ぜひこのまま夜型を貫いてでも、書き続けてください! *** 真鍋昌平 まなべ・しょうへい/1971年神奈川県生まれ。漫画家。1993年、GOMES漫画グランプリで「ハトくん」がしりあがり寿賞を受賞しデビュー。グラフィックデザインのアルバイトを経て、1998年「憂鬱滑り台」がアフタヌーン四季賞夏のコンテストの四季大賞を受賞し、再デビュー。2000年より月刊アフタヌーンに「スマグラー」「THE END」を連載。2004年から2019年までビッグコミックスピリッツに連載された「闇金ウシジマくん」で、第56回小学館漫画賞(一般向け部門)、第23回文化庁メディア芸術祭マンガ部門ソーシャル・インパクト賞を受賞。2020年より「九条の大罪」を連載中。 月村了衛 つきむら・りょうえ/1963年大阪府生まれ。作家。早稲田大学第一文学部文芸学科卒。2010年に『機龍警察』でデビュー。2012年に『機龍警察 自爆条項』で第33回日本SF大賞、2013年に『機龍警察 暗黒市場』で第34回吉川英治文学新人賞、2015年に『コルトM1851残月』で第17回大藪春彦賞、『土漠の花』で第68回日本推理作家協会賞、2019年に『欺す衆生』で第10回山田風太郎賞を受賞。2023年『香港警察東京分室』で第169回直木三十五賞候補。近著に『半暮刻』『対決』など。 [文]新潮社 1896年(明治29年)創立。『斜陽』(太宰治)や『金閣寺』(三島由紀夫)、『さくらえび』(さくらももこ)、『1Q84』(村上春樹)、近年では『大家さんと僕』(矢部太郎)などのベストセラー作品を刊行している総合出版社。「新潮文庫の100冊」でお馴染みの新潮文庫や新潮新書、新潮クレスト・ブックス、とんぼの本などを刊行しているほか、「週刊新潮」「新潮」「芸術新潮」「nicola」「ニコ☆プチ」「ENGINE」などの雑誌も手掛けている。 協力:新潮社 新潮社 小説新潮 Book Bang編集部 新潮社
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