指を折られ、身体には刺青を…2時間で2000万稼いだ女性など 『闇金ウシジマくん』作者が月村了衛に語った驚きのエピソード
ほかの誰から否定されても
月村 登場人物も、最初から「こういう人を登場させよう」と考えておくよりも、書いているうちに向こうからやってきてくれるような人物のほうが、作品にとってはベストだと思っています。『虚の伽藍』でいえば、佐登子、美緒という二人の女性が出てきますが、彼女たちは当初から想定していた登場人物ではありませんでした。 真鍋 二人とも重要な役どころですよね。 月村 作り込んだ人物ばかりを登場させてしまうと、どうしても書き手の枠のなかに収まったようになってしまい、物語も縮こまってしまうんですよね。枠の外から入ってきてくれるような人がいると、「あ、ここであなたが出てくるんですか。じゃあちょっと何かやってみてもらえますか」と演技指導をするような感覚で書けて、物語の幅も広がるんです。 真鍋 月村さんがそんなにも直感を重視しておられるとは、意外でした。難しい話も読みやすく書かれているので、てっきり事前にかなり綿密に整理しておられるのかと。いまのスタイルは、デビュー当時から変わっていないんでしょうか? 月村 はい、ずっとそんな感じです。真鍋さんはいかがですか? 漫画を描きはじめる前に、構成や登場人物を全て考えておられるのでしょうか。 真鍋 いや、全然そんなことはないです。自分も作画しながら途中でどんどん変更していきますし、何の準備もしていない状態で連載を始めてしまうことすらあるので。若いころには一つ連載が終わって、次の週からもう新しい作品を連載しなきゃいけないということもありました。 月村 え……! それはなかなかハードですね。 真鍋 本当は連載が終わったら1ヶ月くらい休みをもらって、その間に次回作に向けた取材をして……という進め方をしたいんですけどね。 月村 私もそう思います。とはいえほかの連載も抱えているので、取材のために休むわけにもいかないんですよね。 真鍋 僕は昼間に数時間、がーっと集中して作画したら、夕方からは少しでも人と会う時間を作るようにしています。 月村 真鍋さんはとても緻密に取材されているイメージがあります。『闇金ウシジマくん』巻末にも、取材協力者の方々のお名前が載っていますよね。 真鍋 漫画家のなかでは割としっかり取材をするほうだと思います。 月村 いやいや、漫画家に限らず、創作者のなかでもトップクラスですよ。あそこまで緻密な取材ができるのは凄いですね。 真鍋 漫画の世界では、新人賞に応募して、受賞すると担当者がついてくれて、コミックスデビューに向けてまた描いて……というケースが多いんですが、最初のうちは自分の身近なものや好きなものから何か一本、描けるんですよ。僕もそうやって初連載『スマグラー』の構想を考えていきました。でもどんな作品にするのかイメージが出来上がったときに、自分が作るキャラクターを信用できなくなってしまったんです。 月村 まさに先ほどお話しした、「書き手の枠のなかに収まってしまう」ような感じでしょうか。 真鍋 そうかもしれません。昔は連載が終わると、「人間があまりにも描けなかったな」と反省することばかりでした。なので、いまでは知らない世界にも積極的に出向いていって、嫌な目に遭いながらも取材して……という創作スタイルを採っています。 月村 ご自身が実際にその世界に足を踏み入れて、人と人との関係性を体感していらっしゃるんですね。 真鍋 ストーリーももちろん大事ですが、漫画では絵で読ませる以上、やっぱりキャラクターが一番重要だと思います。作者が見捨ててしまったら、架空の存在であるキャラクターは死んでしまいます。ほかの誰から否定されても、僕だけは彼らが生きていると信じていなきゃいけない。そうあるためにも、実際に生身の人間に向き合う過程は、僕にとっては欠かせません。取材と創作はワンセットです。 月村 真鍋さんのように信念がなければ、物語は書けないですよね。ストーリーを書けたとしても、キャラクターが生きてきません。たとえワンシーンしか出てこないようなキャラクターでも、いかに「本当にこういう人って存在するのかも」と感じられるような深みを出せるかは、物語を創ることにおいて分かれ道になってきますよね。 真鍋 どんな状況の人であっても、その人の生き方には何かしら意味や理由がある。それは一生探求しつづけていきたいですね。