スマホの画面はなぜバキバキに割れる?その割れ方をシミュレーションで再現してみた。じつはこれ世界初の快挙なんです!
実際の実験はどのように行ったのか?
──そうやってつくったグリッドの大きさはどれぐらいですか? 私のやったシミュレーションでは、三角形の一辺の長さが10マイクロメートル程度ですね。実際の実験では厚さ0.7ミリメートルのガラスの板を使用していますので、これを70等分するくらいの細かさです。 シミュレーションでのメッシュのサイズは、試行錯誤が必要ですね。粗いと現象の細かな変化を捉えきれないので、「この粗さで十分かどうか」を検証しなければいけません。徐々に細かくしていって、それ以上に細かく分割しても結果が変わらなくなれば、そこで計算が収束したことになります。
世界初!残留応力場内での破壊の数理モデルは
──ボロノイ分割のやり方はわかりましたが、それにはどんな意味があるのですか? 三角形のメッシュに加えて、このような分割も用いることで、破壊によって生じる不連続な面を表現できるようにしています。三角形メッシュの中では、変位も応力も連続的になっているので、三角形メッシュだけでは亀裂が生じたときに不連続になるという変化をどう定義すればいいかわかりません。だから一般的なFEMでは破壊シミュレーションができないんですね。 それに対してPDS-FEMでは、ボロノイ分割で定義されたグリッドを「ボロノイ粒子」と呼んで、その中では変形が起きないものと見なします。それ自体は変形も破壊もない剛体だとすると、亀裂ができるのはボロノイ粒子の境界面だけですよね。 このボロノイ粒子同士は剛性マトリクスと呼ばれるバネのようなものでつながっていると見ることができて、そのつながりを切ることで破壊という現象を表現するのが、PDS-FEMという手法のイメージです。このモデルをベースにして、残留応力によってボロノイ粒子にどんな力がかかるのかと、残留応力によって生じる変形のエネルギーが亀裂が進むことでどれぐらい解放されるのかを、定量的に計算できるようにしました。 もちろん、ボロノイ粒子は計算のために定義したものですから、現実の材料で起きる現象と完全には一致しません。そこには、離散化(連続的な現象を細かい領域に分割して計算すること)の限界があります。これはFEM全般に言えることですね。 確かに、三角形のグリッドやボロノイ粒子のサイズを小さくすればするほど、シミュレーションの結果はより現実に近づいていきます。でも、一方で、細かなメッシュにすればするほど計算量がものすごい勢いで増えていってしまいます。計算ができる範囲で、自然現象に近いギリギリのところまで迫れる境目を追いかけるような感じですね。