スマホの画面はなぜバキバキに割れる?その割れ方をシミュレーションで再現してみた。じつはこれ世界初の快挙なんです!
ガラスの脆性破壊のメカニズムとは?
基本的には、材料内部にある微小な欠陥や亀裂が、外から力が加わることによって拡大していくことで脆性破壊は起こります。 たとえどんな小さな亀裂であっても、亀裂の先端では「応力集中」と呼ばれる現象が起こって、実際にかけている力よりはるかに大きな力が発生してしまいます。そのせいで亀裂が急速に拡大していくんですね。そしてこの亀裂が材料全体を貫通すると、材料は一気に破損して、脆性破壊が起こるというわけです。 ──ガラスの割れ方はいろいろだと思います。それがシミュレーションによって再現できるのでしょうか? たしかに、ガラスはいろいろな割れ方をしますよね。何か硬い物が衝突して割れることもあれば、熱したガラスのコップに冷たい水を注いだときに温度差で割れることもあり、それぞれ違った割れ方をします。 シミュレーションを行うときは、破壊の要因となる衝突した物体の重さや速度、あるいはそこで生じた温度変化などの数値データも取り入れて計算します。破壊の要因となるそれぞれの現象と破壊現象の両方をモデル化し、それらのモデルを使って数値計算をすると、どんな割れ方になるのかがシミュレーションできるんです。
強化ガラスのシミュレーションができなかった理由
──でも化学強化ガラスのように残留応力がある場合は難しいんですね? そうなんです。そもそも破壊という現象は、物体が変形することで溜まったエネルギーを解放する過程なんですね。破壊が始まるとエネルギーが解放されて、あるところまで解放されたら終わる。シミュレーションは、その過程を定量的に評価しなければなりません。 ふつうの残留応力のないガラスでは、破壊するためにエネルギーを流入させる、つまり外から力をかける必要があります。外からエネルギーが流入している間は、そのエネルギーを解放することで破壊が続くのですが、エネルギーの流入を止めてしまえば、破壊は止まる。この過程は比較的理解しやすいんです。 ところが残留応力のあるガラスは、外から力を加えていないのに、内部に変形のエネルギーが溜まっている状態にあります。そのため一度亀裂が入ると、外から力を加えていなくてもどんどん勝手に破壊が進んで、もともと内部に溜まっていたエネルギーを解放していってしまいます。 しかも、その亀裂によって材料は分割されたり形が変わったりしていますよね。そこにもまだ残留応力があるので、それぞれの場で新たに「圧縮」と「引張」がつり合う状態に向かおうとするんです。 ──亀裂が進むにつれて、その場その場で「綱引き」のバランスが変わっていくんですね? そういうことです。亀裂が進むごとにエネルギーの解放と再分配が起きるんです。そして、亀裂が進む速度は毎秒2000メートル近くにもなります。ですからシミュレーションのためには、エネルギーが解放される過程と新しい状態に再分配される過程を同時に解いていかなければなりません。しかも、これらの過程が外から何もしていないのに勝手にかつ高速に進んでいく。そこがいちばん難しいところです。 ふつうのガラスは、外から力をかけて割れたら、もう力は伝わりません。そこでおしまいです。でも化学強化ガラスはいたるところに応力が溜まっているので、そこでおしまいとならず、それらの溜まっていた応力がどうなっていくかをいちいち計算に入れていく必要があるんですよ。 ──そのための新しい計算方法を開発したのですか? 使ったのはPDS-FEM(粒子離散化有限要素法)という破壊シミュレーションのための手法です。その基本的なものは、20年ほど前に提案されていました。でも、そのままでは残留応力がある場合の破壊の計算はできません。それを定式化する過程で、残留応力を含む形に変えることで、化学強化ガラスの破壊をシミュレーションできるようにしました。