「宇宙を加速膨張させるエネルギー」科学者たちも棚上げしようとした2つの矛盾
理論と観測の矛盾をどう解消しようとしたのか
しかし、もちろんこの棚上げをよしとしない科学者も存在しました。彼らの多くは、真空のエネルギー密度の理論的予言が観測と矛盾しないようになる新たな理論的可能性を考えていました。しかし、そのどれもがうまくいっていないように見えました(正確には、理論に新たな構造を付け加えることにより、理論と観測との隔たりを60桁程度にまですることはできるのですが、それより小さくするのは難しいように見えました)。 いずれにしても、これらの科学者たちと棚上げ論者に共通していたのは、真空のエネルギー密度の問題を正しく理解したあかつきには、真空のエネルギー密度の理論値はゼロ、もしくは少なくとも事実上無視できる大きさになるはずだ、と考えていたことです。 なぜなら、新たな理論や理解がどのようなものになるのであれ、それは真空のエネルギー密度を、つぎはぎ理論から示唆される自然な値よりはるかに小さくするメカニズムを備えているはずです。そのメカニズムが、真空のエネルギー密度をちょうど人間が科学を発展させたタイミングで観測できる大きさ――それは人間が十分に進化した時点での物質のエネルギー密度と同程度の大きさということですが――に調整することはありそうにないと考えたからです。 このことは、物質のエネルギー密度(エネルギー÷体積)が宇宙が膨張するにつれて小さくなっていくのに対し、真空のエネルギー密度は宇宙が膨張しても変わらない(真空は宇宙が膨張しても同じ真空であり続けるため)ということを考えると、非常にもっともらしく思えます。真空のエネルギー密度を、大きすぎも小さすぎもなく、人間が宇宙誕生138億年後に観測可能な範囲の値にちょうど選ぶメカニズムが存在するなど、とても考えられることではないからです。 つまり簡単に言えば、実際の値が理論的に単純に示唆される値よりも120桁近く小さいことはすでにわかっているのだから、それは恐らくゼロだということを意味しているのだろうと考えたのです。