「悪性のがん細胞」のゲノムの驚愕の姿…もはや正常だった頃とはほど遠い。活性酵素種が引き起こす「衝撃の変化」
美しい二重らせん構造に隠された「生命最大の謎」を解く! DNAは、生物や一部のウイルス(DNAウイルス)に特有の、いわゆる生物の〈設計図〉といわれています。DNAの情報は「遺伝子」とよばれ、その情報によって生命の維持に必須なタンパク質やRNAが作られます。それゆえに、DNAは「遺伝子の本体である」と言われます。 しかし、ほんとうに生物の設計図という役割しか担っていないのでしょうか。そもそもDNAは、いったいどのようにしてこの地球上に誕生したのでしょうか。 世代をつなぐための最重要物質でありながら、細胞の内外でダイナミックなふるまいを見せるDNA。その本質を探究する極上の生命科学ミステリー『DNAとはなんだろう』から、DNAの見方が一変するトピックをご紹介しましょう。 *本記事は、講談社・ブルーバックス『DNAとはなんだろう 「ほぼ正確」に遺伝情報をコピーする巧妙なからくり』から、内容を再構成・再編集してお届けします。
がんが「DNAの病気」といわれるわけ
がんは、よく「DNAの病気」といわれる。DNAの病気とはいったいどういう意味なのか。 がんは、それ以前は正常だった細胞がいきなり〈豹変〉し、多細胞生物の一員だったことを〈忘れて〉無秩序に増殖しはじめた結果として生じるものだ。したがってその原因は、がん化した細胞の〈設計図〉自体がおかしくなったためだと考えられる。がんが「DNAの病気」であるとは、そういう意味だ。 がんとDNAの関係において、有名なのは「がん遺伝子」と「がん抑制遺伝子」だろう。 がん遺伝子というのは、正常にはたらいていた遺伝子の一部が突然変異を起こした結果、はたらかなくてもよい場面でもがむしゃらにはたらくようになって、無秩序な細胞の増殖を引き起こすようになった遺伝子だ。 一方のがん抑制遺伝子は、がん遺伝子とは反対に、もともとは細胞の増殖にブレーキをかける役割を果たしていたはずの遺伝子が、突然変異によってそのはたらきを失うことで、細胞が無秩序に増殖するようになった遺伝子である。