「宇宙を加速膨張させるエネルギー」科学者たちも棚上げしようとした2つの矛盾
ワインバーグと人間原理
この状態で、真空のエネルギー密度の問題に真剣に取り組んだ物理学者の一人にスティーヴン・ワインバーグがいました。電弱統一理論を完成させ、1979年にノーベル賞を受賞したワインバーグです(残念ながら、彼は2021年7月に88歳で亡くなられました)。 彼は1980年代の半ば、それまでに真空のエネルギー密度の問題を解決するために提案されていたメカニズムを念入りに調べてみました。これらの解決策は、ほぼ全て真空のエネルギー値をゼロにしようとするものでしたが、そのどれもがうまくいっていませんでした。これは彼に、問題を解くには当時の多くの物理学者たちが試みていなかったアプローチが必要であると結論付けさせることとなりました。 ワインバーグは、いくつかの先立つ研究者の示唆に従って「人間原理」と呼ばれる考えに注目しました。この考えの核心は、私たちが自らの周りで観測する世界よりも、実はもっと多様な世界がどこかに存在していると仮定することにあります。 では、この考えを真空のエネルギー密度の問題に当てはめるためには、どうしたらよいのでしょうか? ワインバーグが考えたのは、異なる真空のエネルギー値を持ったたくさんの「宇宙たち」が存在するという状況でした。ここでは、これらの宇宙たちがどのように存在しているのかは問題ではありません。 ワインバーグが「たくさんの宇宙」が存在する、という状況のもとに導き出した結論とは、どのようなものだったのでしょうか? (後編〈「宇宙が1つって、誰が決めた?」多様な世界の仮定から生まれた無数の宇宙の存在〉https://gendai.ismedia.jp/articles/-/95238に続く) 本記事を執筆された野村泰紀さんのインタビュー記事も公開中。あわせて、お読みください。 〈無数に存在する宇宙たちと、その謎に挑み続ける物理学者たち〉https://gendai.ismedia.jp/articles/-/94546
野村 泰紀(バークレー理論物理学センター長・カリフォルニア大学バークレー校教授)