300年を乗り越えてきた島商 11代目に刻み込まれた「機を見るに敏」
1716(享保元)年創業の油問屋「島商」。8代将軍の徳川吉宗の時代に商売を始め、明治維新、関東大震災、東京大空襲と動乱と災害を乗り越えてきました。11代目の島田豪さんは「日本橋で300年以上も商売を続けてきたんですよね」としみじみと語ります。移り変わりが激しい東京で、島商が安定的に事業を続けてきたのは、「“油”に軸足を置き、時代に合わせて、柔軟に対応し続けたからです」。代々、時代の先を読むことを得意としてきた島商、11代目が力を入れるのは痒いところに手が届く飲食店への提案です。 【写真特集】下請けだけじゃない 中小企業の技術がつまった独自製品
得意先は老舗や名店 営業の近道は「客として通う」
食品用の油脂と食品卸を行っている老舗企業・島商。11代目の島田豪さんは、代表就任後12年間、右肩上がりで売り上げを伸ばしています。主な顧客は、飲食店、食品加工工場、スーパーや百貨店などの小売店です。 「私の代から、飲食店への卸に力を入れました。天ぷら店、中華料理店、鰻店、とんかつ店、フレンチ、イタリアンなどジャンルは多種多様です」。顧客は東京だけでなく、全国各地に広がっており、独自の流通ネットワークで、油や調味料を確実にお店まで届けています。 「国内外にその名が知られている老舗や名店が多いです。油の専門家集団という私たちの強みが、どうお役に立てるか。試行錯誤の毎日です」 島田さんは、「この油の方がさっくり揚がる、炒め物ならこの油にすると軽やかに仕上がる、名物料理をさらに洗練させるにはこの油、などと、ご提案することもあります」と続けます。 先代時代は、小売店への卸の比重が高めでした。島田さんは、専門性が高い業務用の卸売業に注力しようと決意。飲食店への卸売事業の拡大のために、島田さんが取った行動はただ2つ。飲食店に赴き料理人と会話を重ねることと、“油屋・島商”を一般の人々に広めることでした。 「平日は週5日、外食していました。客として店に行き、顔を覚えていただく。地道なことですが、これが営業の近道なのです」 現在、営業チームは得意先をまめに回って、情報収集を行なっています。お店にとっては、痒いところに手が届くような提案をしてくれる、ユニークな問屋さんです。これは、島商の強みの一つ。 「問屋ですから、欠品をしないというのも企業価値です。2022年は、政情不安や不作の影響で供給不足になることもありましたが、私たちは100%の供給率を達成しました。これができたのは、製造者の方々と長年築き上げた信頼があってこそだと感謝しています」 現在は、業務用が7割、家庭用が3割程度になり、会社の業績は堅調に推移しています。