水道事業を民間委託? 水道法改正の背景と課題とは 坂東太郎のよく分かる時事用語
蛇口をひねれば出てくる水(上水道ないしは簡易水道)は、飲用はもちろん洗濯やシャワーなど多用途に使われています。人は数日食べなくとも生き延びられますが、水は3日摂取しないと命に関わるともいわれます。電気やガスなどのいわゆる「ライフライン」のうち最も重要な存在といえましょう。そんな水道水が汚濁していたらやはり生命を脅かします。「安全で安価で常に手に入る水」の提供は絶対に欠かせません。 【画像】「水メジャー」が担う浜松の下水道事業 水道コンセッションの「先例」になるか? 先の臨時国会で水道法が改正され、一部に「民営化」との表現もなされました。かように重要な水が民間に委ねられて大丈夫かという議論も沸き起こります。そこで法改正で何が変わり、どこが変わらないのかを調べてみました。
改正水道法の「コンセッション方式」
まず水道法の改正について、「水道民営化」という表現は正確ではないという指摘があります。というのも今回導入されるのは、現在原則として市町村(自治体)が運営している水道事業について、自治体が事業認可権と施設(浄水施設や水道管など上水道)の保有権を保持したまま、運営権を民間企業に委託する「コンセッション方式」(詳細は後述)だからです。 文字通りの民営化である「水道事業全部を自治体(または国)と資本関係がない(ないしは「薄い」)民間会社に売り渡す」とか「水道事業を株式会社化して全株を自治体が売却する」といった趣旨ではありません。厚生労働省も「官民連携」という言葉を用いています。 実はこうした形の官民連携は、水道法改正を待たずとも一部可能でした。PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)法が既に施行されているためです。PFIとは「民間の資金と経営能力・技術力(ノウハウ)を活用し、公共施設等の設計・建設・改修・更新や維持管理・運営を行う公共事業の手法」(内閣府WEBサイトより)です。「民間資金活用による社会資本整備」とも訳されます。2011年の法改正で「運営権」の概念が明確化されました。対象となる事業が「PFI事業」で、その手法の1つが「コンセッション方式」と呼ばれているのです。 自治体は施設を保有し続け、運営権を得た民間事業者は対価を自治体に支払います。民間事業者はリスクを取ってより良いパフォーマンスを発揮し、コスト削減や一層のサービス向上に努めます。自治体が定める条例の範囲内でなら、水道料金の設定も可能です。料金の自由化ということではありません。 これまでの課題として、運営権を民間事業者に設定するためには自治体が事業認可を返上しなければなりませんでした。今回の改正で自治体が認可を持ったまま運営権を売却できる仕組みへと変更されたのです。不測の事態が生じた時に自治体が責任を負えるよう配慮したといえるでしょう。 また法改正は「自治体はコンセッション方式を採用せよ」ではなく、個々に「採用してもいい」といった内容でした。