水道事業を民間委託? 水道法改正の背景と課題とは 坂東太郎のよく分かる時事用語
なぜ「民営委託」が必要なのか
前述の通り、文字通りの民営化ではないので本稿では「民営委託」と記します。「いや。事実上の民営化だ」とのご意見の方はここを「民営化」と呼び換えて下さい。 何かを変える時、そこには必ず理由があります。水道事業の場合は主に将来の持続可能性への疑義が横たわっているのです。 1954(昭和29)年から始まった「神武(じんむ)景気」が経済の高度成長スタート期です。この時点で3割程度であった上水道の普及率が急上昇し、1980年代までに9割を超しました。水道管の法定耐用年数は40年。すなわち最も新しい80年代に新設されたものでさえ、まもなく更新すべき期限を迎えます。「耐用年数超え」はすでに総延長の約15%に上っていて、今後一挙にふくれ上がると予測されるのです。しかし設備の更新率は年約1%にも届きません。 背景にあるのが主に人口減少です。いうまでもなく、単純に使用者(=人口)が減れば料金収入も減少します。かといって「あなたの居住地は人が少ないので水道を廃止します」というわけにはいきません。また省エネ・省資源の定着で節水も進んでいます。「60%節水」などという惹句でシャワーヘッドや洗濯機を宣伝する通販番組もみかけます。資源を無駄使いせず節約するのは美徳とはいえ、水道事業の損益だけで考えればマイナスです。かくして自治体の約3分の1が、水道の料金収入だけで給水費用をまかなえていません。 南海トラフ大地震や首都直下型地震が近い将来発生することが懸念される中、耐震化もなかなか進んでいないという現状もあります。 深刻なのは、人口減少に歯止めがかかるメドが全く立っていない点。このままでは設備更新ができずに漏水や断水が起きる危険性が高まる一方です。他方、水道に限らず自治体財政も厳しさを増しているので、場合によっては水道事業に関わる公務員も減らさざるを得ないでしょうし、解決のためには結局、水道料金の値上げしかなくなります。すでにここ30年間で水道料金は3割ほど上がっています。もう「水と安全はタダ」の時代ではありません。 つまり、このまま自治体直営を続けていけば、水道事業は大変なことになるのです。そこで民間のノウハウを借りてイノベーションを起こし、新たな展望を開きたいという思いでコンセッション方式にかけようとする自治体もあります。