水道事業を民間委託? 水道法改正の背景と課題とは 坂東太郎のよく分かる時事用語
「民営化」以外にも重要な論点
「民営化」論議でかすんでしまった重要な改正も見落としたくありません。簡易水道も合わせると7000ともみられる事業者(市町村)の広域連携を打ち出した点です。具体的には都道府県が主役となって計画を作り、協議会を置いて統合を含む連携を強めようとしているのです。 コンセッション方式では、設備は自治体が所有するので更新も手がけます。単に「近くの市町村だから一緒にやろう」で合意できるとは限りません。業績のいい自治体は悪い自治体との連携に難色を示すでしょう。 ただこうした形の解決策は、医療保険のうち市町村単位で運営していた国民健康保険ですでに取り入れられています。規模を大きくすることでメリットが得られればコスト削減にもつながるでしょう。むしろこちらの議論が「まあいいだろう」ぐらいで止まっているのが心配です。
民営化した海外の「失敗例」
今回の改正を「事実上の民営化だ」と反対する側が論拠として挙げるのが海外での「民営化の失敗例」です。 南アフリカでは、水道を民営化した結果、料金が払えなくなった約1000万人が水を止められ、河川で代替したためにコレラがはびこったという衝撃的なケースが伝えられています。 先進国で似た事例として挙げられるのは、仏パリと独ベルリンのケースです。いずれも民営化して問題が発生したので「再公営化」したとされています。 フランスは伝統的に水道などの分野で民間への委託が行われてきた国ですが、現在も「水メジャー」と呼ばれるヴェオリア(フランス)、スエズ(フランス)などの企業があります。保守派のシラク元大統領がパリ市長時代に水道事業を本格的に民間委託しましたが、その後、水道料金が上がったり、企業側の財務状況が不透明だったりなどの問題が発生しました。ベルリンでも同様に、水道料金の高騰や透明性を欠く財務体質に批判が出ました。 その結果、パリは2010年、ベルリンは2013年に再公営化されました。 これらは必ずしも日本の未来を予兆するものではないかもしれません。とはいえ「自治体が100%運営していれば起き得なかった事態が発生し得る」との警告とは受け取れましょう。コンセッション方式を取り入れた場合、おそらく自治体が事業者をどう選ぶのか、また運営権の細目をどう詰めるか、などが最初の難問となりそうです。何しろ自治体は民間のノウハウを知りません。何も知らない発注者が何もかも知り尽くしている(と少なくとも装う)民間業者をチェックする羽目に陥るから難しいはずです。 マスコミは「導入にあたっては、国や自治体が事業内容を厳しくチェックすることが大切である」(読売新聞2018年12月8日付社説)と説いています。まさしくその通りなのですが、民営の何たるかを知るよしもない「自治体」が、例えば海千山千の水メジャーの「事業内容」をどう「厳しくチェック」できるのでしょうか。