デザイナーの世界観を表すヴィンテージ感のある空間
築45年のヴィンテージマンションの1室。ここは、建築デザインを手掛けるデザイナーのお宅。これまで集めてきたインテリアや染付の器、趣味のレコードなど、国籍も年代も問わず好きなものだけを無造作に置いているのになぜかしっとりと落ち着ける。オーナーのこだわりにあふれ、心の贅沢が感じられる空間はどうやって作られているのだろうか。
細田邸/1LDK+S/100㎡
大きなアールの開口越しに見えるのは、イームズのラウンジチェアやスペイン製のフロアスタンド。埋め込みで造作した棚にはレコードや書籍、イタリア人デザイナーのオブジェなどが並ぶ。暮らしてまだ半年ほどというのに、国境を越えたモノたちが、まるで生まれたときからそこにいたかのように馴染んでいる。ここは〈ハウストラッド〉のデザイナーの自邸。 「もともと、ときを経て味わいを増したものが好きで、少しずつ買い集めていました。“好きなもの”と“したい暮らし”のイメージを実現できる物件にようやく出会えて、築45年のマンションをフルリノベーションしました」 こだわったのは広さと構造だ。マンションには“ラーメン構造”と“壁式構造”の2種類があり、柱や梁のフレームで建物を支えるラーメン構造に対し、壁式構造は耐力壁や天井などの面で支える。耐力壁は撤去できないが、室内に柱や梁の凹凸がなく、家具の配置などの自由度が高い。探していたのはこの壁式構造。取り払えない壁を残しながら、ドアを設けずアーチ型の垂れ壁で廊下と居室を繋いだ。どの場所から見ても景色がやわらかく切り取られ、音楽が静かに流れてくる。外せない壁のために、洗面室・浴室の広さは変えられないが、洗濯機を廊下の壁面収納内に配置するなどの工夫で狭さを解消した。 ヴィンテージマンションの持つ重厚感を生かした居室には、1950 年代、1960年代の名作家具や照明を自在に配置。柳宗理のバタフライスツールと、フランスのピエール・ガーリッシュのアムステルダムチェアは、全く異なるデザインながら、ともに’50年代に曲げ合板の技術で作られた美しいフォルムが共鳴し合う。「誕生した背景を知り、歴史を遡るほど面白さが増して」というオーナーの審美眼を通して集められたモノたちが、その世界観を体現している。