建築家・中村拓志の人生を変えた傑作住宅が北欧・フィンランドにあった!巨匠アルヴァ・アアルトが設計した「マイレア邸」の魅力を自身で解説
マイレア邸には家族や客人たちへの思いやりが満ち、自然と人間の有機的な関係がある。それは相手を慮るという、日本人が培ってきた感性や自然観の建築的継承のようにも感じる。自然のなかに精霊の存在を信じるフィン族と、八百万の神を信じる日本人。その尊い自然のなかで私たちが得る感情やそれに伴うふるまいこそ、人と人が共有し連帯することのできる価値ではないか。 アアルトが日本の伝統的建築や庭園に見出した可能性は、「人間と自然の関係性」や「人々の連帯」が問われる現代において、大きな意味を持ち続けている。 【Profile】なかむら ひろし/ 1999年明治大学大学院修了。隈研吾建築都市設計事務所を経て2002年中村拓志&NAP建築設計事務所設立。明治大学理工学部特別招聘教授。主な作品に「Optical Glass House」「ベラビスタ スパ&マリーナ 尾道」「Ribbon Chapel」など。日本建築学会賞ほか受賞多数。
マイレア邸とは?
アルヴァ・アアルトと妻アイノ設計のマイレア邸は、近代建築史に燦然と輝く名作。敷地のあるノールマルクはフィンランド南西部に位置し、夏は白夜、冬は極夜に近い状態が続く。 主は海運や製鉄業で財をなしたアールストローム家の令嬢マイレとその夫で取締役のハッリ・グリクセン。マイレはアアルト夫妻とインテリアブランドのアルテックを創業した仲でもある。 この建物を設計した当時、アアルトは吉田鉄郎の著作『日本の住宅』の愛読者で、日本庭園や建築が持つ自然主義や心理的効果、工芸性が近代の機能主義的空間に人間性を取り戻す契機になると考えていたことが知られている。