ひきこもり経験者が寄り添う、つながりの輪広げる メタバース活用、原点は絵はがき、札幌の団体設立25年【地域再生大賞・受賞団体の今】
ひきこもり状態にある人の相談や居場所づくりに取り組む「レター・ポスト・フレンド相談ネットワーク」(札幌市)が設立25年を迎えた。かつて同じ経験をしたスタッフが「社会や仲間とつながるきっかけになれば」と、当事者目線で本人や家族に寄り添い続けてきた。活動の原点である絵はがきやメールによる交流に加え、インターネット上の仮想空間「メタバース」を使った支援も始めた。(共同通信=藤田康文) 【写真】オンラインゲームの「ガチャ沼」にはまる子どもたち、抜け出すにはどうしたらいい? ゲーム障害&ギャンブル依存の症状も
▽思い思いに過ごす 2024年8月、北海道庁に近い公共施設でレター・ポスト・フレンド相談ネットワークが開いた「よりどころ」。20~50代の男女7人が集まり、「ピア・スタッフ」と呼ばれる6人の運営メンバーと、おしゃべりやボードゲームに興じる。次第に打ち解け合う参加者たち。田中敦理事長(58)は穏やかな表情で見守る。 「ピア」は英語で仲間や同僚を意味する。スタッフは全員、ひきこもりの経験者。「支援者」として身構えるのでなく、自然体で接する姿が印象的だった。 ▽匿名で参加 この日はメタバースを活用しオンラインでも開催し、遠隔地に住む男性も参加した。会場のタブレット端末には、仮想空間に男性の分身「アバター」である動物のキャラクターが映っていた。 ピア・スタッフの大橋伸和さん(40)は「私はひきこもり経験者です。つながることができて、うれしいです」と話しかけた。地元の役所でネットワークの活動を知ったという男性は「好きなのは歴史」と自己紹介。大橋さんらと、近現代史や教育問題などをテーマに話が尽きなかった。
メタバースはソフトバンクの協力を得て、4月に導入した。対面で話すのが苦手でも、顔や名前を出さずに参加できる。 ▽家族の関係に変化 「よりどころ」は当事者会と家族会があり、それぞれ月4回開催(うち1回はオンライン)。決まったプログラムはなく、ゆったりと過ごしながら同じ立場の人とつながり、情報交換できる。参加は無料。精神保健福祉士などの専門家も定期的に相談に応じる。2023年度は延べ443人が参加した。 本人とのコミュニケーションが難しい中で家族がピア・スタッフと話すうちに本人の気持ちを理解でき、関係が改善したケースも多い。 ▽生きる理由に ピア・スタッフの大橋さんは小学4年のころから13年間、特定の場所で話せなくなる「場面緘黙」の症状があった。中学にはほとんど通わなかった。25歳で大学に入り、2年生のときにネットワーク理事長の田中さんと出会った。 「うまくいかなかった自分だからこそ、苦しんでいる人を理解できて、仲間になれる。社会で自分の役割を見いだした。活動は生きる理由になっている」と話す。