ひきこもり経験者が寄り添う、つながりの輪広げる メタバース活用、原点は絵はがき、札幌の団体設立25年【地域再生大賞・受賞団体の今】
ただピア・スタッフの報酬は謝礼程度。大橋さんは障害のある人から相談を受ける別の仕事もしているが、この収入と合わせても経済的な自立は簡単ではない。「ひきこもりの人にも、障害基礎年金のような最低限の収入保障をしてほしい。(多くの人は働く以前に)外に出ることすら難しい」と制度的な支援を求める。 ▽親友ができた 「とり」のニックネームで活動する50代の男性は、5年前からピア・スタッフを務める。よりどころの参加者の男性と親友の間柄になった。昨年亡くなり「今も心の中で彼の存在が大きい」と語る。 とりさんは1990年代に技術職として首都圏の企業に勤めた。休日出勤を強いられ、先輩にパワハラのような態度を取られた。辞職してアルバイトや派遣社員として食いつなぐが、景気の悪化で仕事がなくなり、数年前に実家に戻った。 「一度正社員から外れると厳しい。技能や経験があっても、年を取ってブランクがあるというだけで評価されない」と述べ、やる気があっても就労が難しい状況の改善を訴える。 ▽アナログの良さ
レター・ポスト・フレンド相談ネットワークは1999年に任意団体として発足し(現在はNPO法人)、ひきこもりの人に絵はがきを送る取り組みを始めた。不登校の電話相談を受けていた理事長の田中さんが、話を始められないまま切ってしまう相談者の存在に「電話は負担が大きい」と感じたのが理由だ。 メールで気軽にやりとりできる今も、イラストや文章が得意なスタッフが月2回、20人に送っている。送り手の思いが伝わる手紙の「アナログの良さ」、言葉では伝えられない気持ちを表現できる絵はがきを大事にしている。「疲れている人にとって、届くまでの時間的なゆとりも必要」と田中さん。 ▽自信を取り戻す 2007年に当事者が定期的に集まるSANGOの会を始めた。トレッキングなどアウトドア活動にも力を入れる。活動実績が評価され、この会とは別に18年、札幌市から委託を受ける形で冒頭の「よりどころ」も開設した。 道内各地に出向き交流会を開いており、これが契機となって当事者団体や独自の居場所ができた地域もある。当事者による芸術展など多くのイベントも開き、失われた自信を取り戻した人は数知れない。つながりの輪は広がっていった。