きっかけは「ジャパゆきさん」救出 半世紀にわたり女性自立の支援を続ける大石由紀子さん 一聞百見
「売春で妊娠した」「親に性的虐待を受けている」。性被害を受けた女性や子供からそうした相談が寄せられれば内容を親身になって聞き取り、外国人からの相談には得意の英語を生かして対応する。「被害者の心のケアと援助が何よりも大切」とあって、解決の糸口が見つかれば各関係機関へとつないできた。
電話相談と並行して続けてきたのが、犯罪者の社会復帰を手助けする保護司としての活動だ。性犯罪者を中心に、出所して保護観察中の人たちと月2回の面談を重ねた。総じて感じたのは「本心から申し訳ないと思って(面談に)来る人は少ない」ということだ。
面談した相手に「あんた、頑張るんやで」と励ましの声をかけても、「うん」の一言のみ。「ありがとう」という感謝の言葉もない。フィリピン人らを管理売春した罪で服役した女性は、再び管理売春に手を染めた。「正直、自分が情けなくなることもあった」と無力感も残る。
それでも、15年ほど保護司の活動を続け、近畿地方保護司連盟会長表彰を2度受賞するなど実績を重ねた。「保護司を続けたのは、社会のために尽くしたいという思いが全て。いい勉強になった」と話す。
さらに、法廷通訳人という肩書も持つ。刑事裁判で外国人の被告が話す言葉を即座に訳するのが職務だ。保護司では性犯罪関連を多く扱ったが、法廷通訳では「金銭トラブルのような話が多かった。保護司と違った事件を扱えたので、すごく面白かった」と振り返る。
貧困や性犯罪被害に苦しむ女性や子供のため、フィリピンやタイにまで活動を広げた社会貢献活動が評価され、平成27年には安倍晋三元首相の妻、昭恵さんが会長を務める公益財団法人「社会貢献支援財団」(東京)から社会貢献者表彰を受賞。その後も東久邇宮国際文化褒賞(平成29年)や産経市民の社会福祉賞(30年)、ペスタロッチー教育賞(令和元年)、作田明賞(3年)など数多くの受賞歴を誇る。
すでに85歳。保護司や法廷通訳人などの活動は8年前に退いた。幼い頃から左脚が障害で不自由な上に、最近は耳も聞こえにくくなってきた。それでも自宅で電話相談を受け付ける活動だけは続けている。教員から性被害を受けたという女子生徒の相談を受けたこともあり、最近は教員による性犯罪が多発していることを憂慮している。