【コラム】レッドブルのローソン起用人事に納得できる理由はあるのか? 希望的観測と角田裕毅への評価
プレッシャーへの対処能力
そしてローソンのプレッシャーへの対処能力についてだ。レッドブル陣営が姉妹チームのマシンに乗せた2スティントとも、ローソンは堅実なパフォーマンスを見せ、大きなクラッシュもなく、いくつかのポイントを獲得した。 実際、ローソンは経験豊富なチームメイトに迫り、時にはそれよりも速いタイムを出していた。こうしたパフォーマンスがなければ、レッドブル・レーシングのシート争いに加わることさえなかっただろう。少なくとも、安定感があるように見える。 しかし、それは姉妹チームでの短い期間での話。ローソンに失うモノは何もなかった。 シーズン途中から加わったドライバーに奇跡を期待する者はいない。そのため、悪コンディションとなった2023年のオランダGPのレースを完走したり、今年のアメリカGPでポイントを獲得したりするだけでも、期待以上の結果と見なされた。 しかしレッドブル・レーシングでの期待値はもっと高くなる。その時こそ、ローソンのプレッシャー対応力が試されるのだ。 予選で満足のいくラップを刻んでガレージに帰ったら、フェルスタッペンがそれよりも0.4秒千切っていたという感覚をローソンはまだ経験していない。それは遅かれ早かれ、そして定期的に起こることだ。 ローソンはある時点で、フェルスタッペンの速さを受け入れるか、セットアップで0.4秒を削ろうとするか、どちらを採っても難しい選択を迫られることになる。それがいかに愉快なモノか、経験者のピエール・ガスリーに訊いてみてほしい。 ローソンもミスをするだろう。トロロッソ/アルファタウリを率いたフランツ・トスト元代表は、どんなドライバーにも“クラッシュ期間”があるとよく言っていた。フェルスタッペンもそうだった。仮にローソンの“クラッシュ期間”がすぐにやってくるとすれば、グリッド最速マシンのひとつでのこと。当然、多くの衆目が集まる。 ペレスは経験豊富なドライバーであるにもかかわらず、負のスパイラルに陥ることを避けられなかった。ガスリーもアレクサンダー・アルボンも逃れられなかった。 そしてメディアは待ってくれない。全てのミスの後には記事が出る。ご意見番ジャック・ビルヌーブの小言もある。それらを全て受け流すこともできるが、ビルヌーブの口から出る意見が、みんなの心の中にも少なからずあるということも分かってしまうのだろう。 ローソンにとっては、全く別次元のプレッシャーになる。最大の問題は、今のローソンを信頼するあまり、レッドブル陣営が下積みを経て強くなった別の世界線のローソンを失うリスクだ。トップチームからのオファーを断るドライバーはいないだろう。そしてローソンに迷いがあったはずもない。 しかし、ダニール・クビアトやガスリー、アルボンのように、ローソンも倒れてしまったら? そしていつか本当にレッドブル・レーシングのトップドライバーになれるポテンシャルを持ちながら、成長や学びの時間が与えられなかったら? 今、食いつぶすリスクは理にかなったモノなのだろうか? レッドブル首脳陣が角田をトップドライバーとして見ていないとしても、1年間マシンに乗せることにほとんど問題はない。角田が倒れても、首脳陣は元々輝けるとは思っていないのだから……しかしレッドブル陣営がポテンシャルを高く評価するローソンにもう1年、F1の基礎を学ばせるのは当然のことだったはずだ。 それなのに、レッドブル首脳陣はローソンをあのシートに据えた。角田よりも速く、安定した走りができるという明確な証拠もない。トップを走るマシンに対応できるという保証もない。そしてポテンシャルを裏付ける確かな論拠もない。 しかし希望があるのなら、そんなモノは必要ないのかもしれない……。
Oleg Karpov