徳川家康、きんさん・ぎんさん、森光子さん…「長寿の人」が食べていたモノとは? 世界が注目する「超健康食」
実は良い効果もあるお酒
ここで、時代をぐっと今に近づけると、ギネスブックに「長寿世界一」と登録されたこともある泉重千代さんは、生涯、焼酎のお湯割りを友にしていました。「古事記」に「笑酒(えぐし)」として登場するように、古来、お酒は精神的な健康の維持に役立ってきました。もちろん飲み過ぎは禁物ですが、適度な飲酒は血行を良くしてくれる効果もあります。 また、鹿児島県の徳之島で生まれ育った重千代さんは、サツマイモを主食のようにしていた時代もありました。皮膚や粘膜の健康を維持してくれ、美肌成分として知られるビタミンCが、意外なことにサツマイモにはニンジンの5倍も含まれています。サツマイモも、重千代さんの健康長寿の源となっていたことでしょう。 「100歳の双子」として知られたきんさん、ぎんさんの姉妹はみそ汁に加え、きんさんはマグロ、ぎんさんはカレイやヒラメの刺身を好んで食べていました。良質な脂肪酸として知られ、血液をサラサラにするなど、高い生活習慣病予防効果があるものの、含んでいる食物が少ないDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)を、生魚からは効率よく摂取できます。 魚を生で食べるという世界でも珍しい日本の食文化は、古くは「魏志倭人伝」に記されています。 〈倭の国は温暖で、冬も夏も、生菜を食べる〉 この「菜」は「副菜」、つまりおかずを意味し、「生菜」とは今でいう刺身を指すと考えられます。80歳ごろまで生きたともいわれる卑弥呼の長寿にも、日本が誇る刺身文化は一役買っていたことでしょう。
森光子さんが食卓に加えた食材
さて、現代のスーパーウーマンの一人であり、舞台「放浪記」で2000回以上も主役を務め、92歳で鬼籍に入った森光子さんは、肺結核を患った経験から毎日の食卓に鶏卵を加えることにしたそうです。 世界の長寿者を見てみても、卵をよく食べている人が多いように感じられます。卵は、ビタミンCと食物繊維以外の栄養素を多く含んでいるというバランスの良さに加え、とりわけ現代においては、卵黄に多く含まれているレシチンとコリンという成分が重要な意味を持ちます。レシチンの“健脳効果”は先ほど紹介しましたが、コリンも、記憶や学習する力に深く関係するアセチルコリンという物質の原料になります。そして、卵黄のコリン含有率は、食品の中で最も高いのです。 人生100年時代を自立的に全うするには、体だけでなく脳の健康が欠かせません。せりふを覚え、忘れることがなかった森さんの姿を振り返ってみても、卵黄の偉大さが分かります。 最後に改めて、「日本の現状」についてお話ししたいと思います。 先日、米国ニューヨークで働く日本人の女性ドクターが私の元を訪ねてきました。米国などでは、植物や魚に含まれる自然の薬効に注目した「ナチュラル・メディシン」という考え方が広まっているそうです。 日本の長寿者たちは、まさにこのナチュラル・メディシンを実践してきたといえます。だからこそ今、わざわざ海外から私のところにまで取材が来るのでしょう。「老いたる国・日本」は、実はナチュラル・メディシンの「最先端を行く国」といえるのです。 永山久夫(ながやまひさお) 食文化史研究家。1932年生まれ。綜合長寿食研究所所長。古代食や長寿食の研究を続け、平成30年度文化庁長官表彰を受ける。自身、サプリメントを一切飲まず、健康長寿を実践中。NHKの大河ドラマ「独眼竜政宗」「春日局」などで食膳の時代考証を手がける。『食べて、100歳』『「和の食」全史』『長生き名人に学ぶ百歳食事典』『紫式部ごはんで若返る』など著書多数。 「週刊新潮」2024年11月28日号 掲載
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