被災地の「怪談」に宿る温かさと喪失感 東北ならでは死者との向き合い方 #知り続ける
今年の3.11は故人を偲ぶ十三回忌
怪談を蒐集する小田さんや黒木さんは、被災者の心情に寄り添っていた。だからこそ、怖さよりも、温かさや切なさが印象に残る。 だが、最近は事情が変わってきた。それは、震災から10年以上が過ぎて、3.11が遠くなってしまったからかもしれないと土方さんは言う。 「ストレートに怖さを強調する怪談が増えたような気がします。初めは違和感があったが、最近はそれもひとつの役割なのかなと考えるようになった。語り継がれることで、災害の恐ろしさが伝わり、防災意識につながっていくかもしれませんから」 土方さんが被災地の不思議な話を初めて耳にしたのは、2011年の秋口だった。 「初盆が過ぎたあたりから、被災地で怪談が広まった。初盆や七回忌などで営まれる法事では親族や関係者が集まり故人を偲ぶ。被災地の怪談を生むのが、会いたいという思いや喪失感だとしたら初盆がひとつのきっかけだった気がします」 今年の3月11日は、東日本大震災から12年――十三回忌である。たくさんの人が亡き人の面影を偲び、会いたいと願うだろう。土方さんは言う。 「今年の3月11日は特別な一日になるはずです」
------- 山川徹(やまかわ・とおる) ノンフィクションライター。1977年生まれ。東北学院大学法学部卒業後、國學院大學二部文学部史学科に編入。在学中からフリーライターとして活動する。『国境を越えたスクラム ラグビー日本代表になった外国人選手たち』(中央公論新社、2019)で、第30回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。ほかの著書に調査捕鯨に同行した『捕るか護るか? クジラの問題』(技術評論社、2010)、『カルピスをつくった男 三島海雲』(小学館、2018)、『最期の声 ドキュメント災害関連死』(KADOKAWA、2022)など