2点差からの大逆転V!なぜ静岡学園は24年ぶりの”サッカー王国”復活を成し遂げたのか?「徹底して個を育てる」
ロッカールームに響きわたった怒声が、静岡学園を目覚めさせた。前半アディショナルタイムにDF中谷颯辰(3年)がゴールを決め、1-2と追いあげて迎えたハーフタイム。今大会で初めて川口修監督が入れた喝が、サッカー王国・静岡へ24年ぶりに栄光を取り戻させる序曲になった。 「魂がないよ! がっかりだ!」 史上9校目の連覇を目指した青森山田(青森)と埼玉スタジアムで対峙した、13日の第98回全国高校サッカー選手権決勝。過去最多の5万6025人の観客で膨れあがったスタンドに、そして王者のプレッシャーに気圧されたのか。指揮官が驚くほど、前半の静岡学園は攻守両面で精彩を欠いた。 「あまりにも浮き足立っていて、いままで積み重ねてきたサッカーをやろうとしなかったので。どんな状況でもボールを受けて、触りまくることで自分たちの持ち味が出るのに、中盤の選手たちの距離感がちょっと遠くて、なおかつボールを受けることを怖がってしまっている部分もあったので」 1回戦から無失点を続けてきた守備陣が、攻略されるのは想定内だった。それだけ11分の先制点を生んだ青森山田のセットプレーは脅威だったし、33分には不用意なファウルからPKを与えて追加点も献上した。戦況を見ながら、後半の頭から大胆な交代策を打つと川口監督は心中で決めていた。 そして、前半終了間際に1点を返したことで、指揮官をして「あらためてファイティングポーズを取れた」と言わしめたムードが生まれた。直後に総監督としてベンチ入りしている名将、井田勝通前監督に「この流れは(静岡)学園じゃないので」と、背水の陣を敷く采配に打って出ることを告げた。
守備力に長けたボランチ藤田悠介(3年)に代えて、サイドアタッカーの草柳祐介(3年)を左サイドへ投入。それまで左サイドを務め、3回戦までに4ゴールをあげている小山尚紀(3年)をトップ下に回す配置転換に、喜寿を迎えた井田前監督も「そうだな」と以心伝心でうなずいた。 「とにかく中盤でボールをもちたかった。攻撃は最大の防御というか、ボールをもったまま失わなければ守備なんてやらなくていい、というくらいの覚悟でいけと言いました。自分たちがボールを握りさえすれば、絶対にチャンスが生まれると思っていたので」 小山、正確無比なキックを誇る井堀二昭(3年)、在学中に最も伸びたと指揮官が賞賛する浅倉廉(3年)でボールを動かし続ければ、青森山田の守備も中央に寄る。必然的に両サイドにスペースが生じ、草柳と大会後の鹿島アントラーズ入りが内定している松村優太(3年)のドリブラーが生きてくる。 サイドが脅威になれば、今度は中央の守備が甘くなる。個の力を徹底して繰り出せば「必ずどこかに穴ができる」と意図を説明した川口監督は、決してその場で閃いた戦術変更ではないと強調する。 「昔から学園はそういうサッカーじゃないですか。2点を取られれば3点、3点を取られれば4点と、1点でも多く取って勝つ発想しかありませんでした」 静岡学園が全国規模で注目を集めたのは、初出場した1976年度の第55回大会だった。慶應義塾大学卒業後に就職した静岡銀行を辞して指導者に転身し、海外を旅しながら見聞を広げた井田前監督が掲げた、ドリブルなどの個人技を何よりも重視した南米スタイルが一大旋風を巻き起こした。