大谷翔平のスピーチが素晴らしい理由は?プロが解説する「ユーモアとジョーク」の大きな違い
大谷選手のスピーチから学ぶ、ユーモアとジョークの違い
結婚式のスピーチで、きわどいジョークを飛ばして会場を凍りつかせた人を見たことはないでしょうか。先ほど述べたように「伝える」ことにユーモアは重要ですが、ユーモアとは、お笑い芸人のように聞き手を笑わせることが目的なのではなく、プレゼンやスピーチで言いたいことをより効果的に印象付けることが目的です。 「笑わせる」を目標としたジョークは、むしろ逆効果になる事が多くあるのです。結婚発表会見での大谷選手のスピーチを例に、ユーモアとジョークの違いを見ていきましょう。 記者 「結婚した日はいつですか?」 大谷選手 「特に言わないというか。言わなくていいかなと」 記者 「なぜあえて発表したのですか?」 大谷選手 「一番は皆さんがうるさいので(笑)。しなかったらしなかったでうるさいですし」 「皆さんがうるさいので(笑)」という言葉に記者会見でも笑いが起こっていましたよね。まさにユーモア。ユーモアがあることで記者会見という場の緊張や相手の敵意をほぐし、大切なポイントを強調して伝えています。そしてこの「皆さんがうるさいので(笑)」という言葉は話題にもなり、記憶に残る会見になりました。 しかし、ユーモアではなく、ジョークを使ってしまうと危険です。 ユーモアとジョークには、目的の違いがあります。ジョークが「笑い」を目的にするのに対し、ユーモアは「笑いを通じてメッセージを伝える」ことが目的です。「ここで一発笑わせておこう」とジョークを言ったりすると、次に繋がらず聞き手が冷めてしまったりするので注意が必要です。 例えば大谷選手が「みなさんがうるさいので、耳栓しても良かったんですが」とジョークのつもりで言ったとしたら、少々不快感を与えたことでしょう。しかし大谷選手が言いたかったことは、「皆さんがうるさい」ということではありません。プライバシーにかかわることは快く話したくなかった状態でも、著名アスリートの責任の一端として結婚発表をすることにした、ということが目的です。 ジョークは高度で至難の技です。「笑いをとろう」と思ってジョークを一発言ってみてもなかなか人は思ったように笑ってくれません。万が一うまくいって笑ってくれたとしても、笑いを取ることを目的としたジョークは、本題とは直接関係ないことが多いものです。せっかく笑いが取れても、そのあと急に話題の異なる本題に移ってしまったら、その場の空気感は一気に冷え切ってしまうことでしょう。 大谷選手のユーモアは「言いたいことを伝える」ことが目的としてあり、そこに笑いを付け加えていることがスピーチとして成功した秘訣なのです。 ---------- ●今週のtips ・スピーチやプレゼンにユーモアを入れることで効果的にメッセージを伝えることができる。 ・ジョークが「笑い」を目的にするのに対し、ユーモアは「笑いを通じてメッセージを伝える」ことが目的。ジョークは取扱注意。 ---------- 信元さんの連載「伝え方を鍛える」は毎週月曜に更新! 次回はアウェイな状況で使えるコミュニケーションのテクニック。大谷翔平選手のスピーチはなぜ“敵を味方に変える”のか。プロが解説する「NOから入らない」伝え方についてプロスピーカー信元さんに解説いただきます。
リップシャッツ 信元夏代(ブレイクスルー・スピーキング代表)