なぜK-1王者の武尊は魂のKO防衛を果たせたのか…裏に天心戦実現への壮絶覚悟…「死ぬ覚悟がないと相手を殺せない」
右が当たり、スタンディングダウンを奪う。朦朧としていたレオナが本能のまま続行の意志を示すと、武尊は全身全霊の力をこめてパンチをふりまわす。ブンっと音がするような必殺の右が当たった。レオナは、しゃがみこむようにして崩れ、額をマットにつけたまま動かなくなった。あまりのパンチの勢いに武尊自身が転倒しそうになるくらいの迫力だった。 「失神したんで何も覚えていない。むちゃくちゃ強かったと思う」 試合後、レオナは意識を失っていたことを明かした。 コーナーに駆け上がった武尊は雄叫びを上げて、クルっとトンボを切った。 「やっぱりKー1はKO。何を言われても倒したほうが勝ち。それを体現できた」 新型コロナ対策で観客の入場人数が制限されていた日本武道館が興奮で揺れているようだった。 試合後、プライベートでも親交のあるミュージシャンの西川貴教さんと握手した武尊は、何かから解放されたかのような優しい笑顔を浮かべた。 「今まで以上に背負うものが多かった。過去最高レベルのプレッシャーを感じた。プライベートでもずっと笑っていなかった。終わって今世界が明るく感じます」 壮絶な自己との戦いの日々があった。 絶対に負けられない試合だった。レオナ戦は、当初、昨年11月の福岡大会で実現する予定が、武尊の左拳の怪我で1月24日の代々木大会に延期。さらに首都圏の緊急事態宣言を受けて、この日に2度目の延期となっていた。怪我があっても3度目の延期は許されない。王者としての果たさねばならない責務がある。 大晦日には、RIZINの会場に足を運び、「来年に(天心戦を)実現させるという決意を込めて来場した」と宣言した。先に天心は2月28日に横浜アリーナで行われた「RISE ELDORADO 2021」で志朗に完封勝利。見えない敵との戦いにさらに重圧がかかった。 「すごい大きな恐怖と戦った」 不眠症に陥った。クビのあたりに疲れがたまり、腕を上げるだけで辛い状態になった。「体がストレスで悲鳴をあげていた」という。 悩める武尊を救ったのが、K-1の“レジェンド”魔裟斗氏の「武尊不利予想」だった。大会2週間前にYouTubeで「先を見てしまうと、足元をすくわれちゃう。そこが不安要素」などと語っていた。元K-1王者の佐藤嘉洋氏もレオナの勝利を予想していた。武尊のプレッシャーに追い打ちをかけるような発言に思えるが、実は、逆にその「武尊不利説」に救われたという。 「ありがたかった。精神的に追い込まれているときに『このままじゃ負ける』と言ってもらって楽になった。勝って当たり前より勝ったら凄い方がモチベーションが上がる。2人がああ言ってくれて救われた。魔裟斗さんの僕への優しさ。『気を引き締めろ』というエールと受けとった」