今、北尾吉孝が読み解く変化の兆しと3つの「キ」
テクノロジーの進化をいち早く取り込む
北尾:何がいちばん世の中を変えるか。お金も社会を変える原動力ですが、お金は価値を生み出すものに使って初めて意味を成します。では、価値を生み出していくものとはいったい何なのか。僕はやはり技術だと思います。 例えば、SBIグループは「金融の規制緩和」と「インターネット革命」という2大潮流のなかで1999年に創業し、飛躍的な成長を遂げてきました。日本の金融ビッグバンによって、それまで固定だった株式売買委託手数料を自由に変えられるようになった。そこで初めて、インターネットで証券業をする価値が出てきました。 インターネットだから支店が要らない分、お客様が負担するコストも下げられる。インターネットを機軸に日本のいびつな金融システムを是正し、金融業界に大きな楔を打ち込みたいと考えたわけです。結果的に、この25年でSBIグループの証券口座数は約1300万口座に達しました。これができたのは、やはりインターネットという技術のおかげです。 銀行も同じです。2007年に住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)と一緒に住信SBIネット銀行をつくったら、あっという間に黒字化しました。支店を設けずにインターネットを活用した銀行業はネーションワイドでお客さんを獲得できることから、地方銀行も、テクノロジーと金融の融合、すなわちフィンテックの力で新たな価値を生み出して成長することができるということです。 ■テクノロジーの進化をいち早く取り込む ──テクノロジーとデジタルについても先見の明をもち続けています。 北尾:SBIグループは「デジタルスペース生態系」の構築を目標のひとつにしています。企業生態系という概念こそ、SBIグループの飛躍的成長の原動力です。僕は1993年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』で企業生態系(ビジネスエコシステム)について書かれた記事を見て、これだと思った。業種を金融業に絞って、そのなかで関連性のある企業と生態系をつくればシナジー効果と自己進化が合わさって、より成長性の高いものが生み出されるだろうと考えたわけです。 そこでインターネットを柱に証券、銀行、保険などの金融事業をはじめとしたさまざまな事業を手がける「金融生態系」の構築を進めて、創業から16年でほぼ完成しました。ところが、そこへきてさらなる技術の変化があった。例えばブロックチェーンです。この技術が出てきたとき、僕は金融業にとってものすごく利用価値があるなと思いました。 インターネットというベースの上にワールド・ワイド・ウェブがあって、アプリケーションが乗る時代はもう陳腐化した。次はインターネットの上にブロックチェーンのレイヤーがあって、その上にブロックチェーンのアプリが乗っかる時代になると思い、ブロックチェーンを基盤にした生態系につくり直そうと全社に号令をかけた。そうしてSBIグループでは、ブロックチェーン分野を皮切りに、さまざまな布石を打ってきました。 2015年ごろから、世界は技術におけるコンドラチェフの波、つまり約50年周期で循環するとされる長期的な景気循環の波を迎えました。生成AIやビッグデータの活用、ロボットを使ったプロセスの合理化など、新しいテクノロジーが同じ時期に次々と生まれている。こうした技術をどんどん取り入れて、われわれの事業に採用してきたのです。