「テラスハウス」木村花さんの件も担当する弁護士に学ぶ、ネットトラブル対処法
弁護士として改善を望むこと
――清水弁護士は、SNSなどでの誹謗中傷により亡くなったプロレスラー・木村花さんの件でも代理人を務められていました。この件がきっかけとなって、インターネットのルールやマナーについて考え直したり、時代に合わなくなっていた法律が改正されたり、少しずつ変わってきているようにも見られます。弁護士として仕事の上では変化はありますか? 「法律が変わったことで、発信者の情報開示請求が多少早くできるようになりました。早いと言っても、以前は8~10ヵ月かかっていたのが、4~6ヵ月になり、数ヵ月早くなったというレベルですが」 ――数ヵ月早くなることは、解決に大きく影響するのですか? 「依頼者としては早く解決ですよね。誹謗中傷してくる相手が誰なのかが特定できるまでモヤモヤすると思います。もしかしたら身近な人かもしれない…と疑心暗鬼になって、うつ状態になってしまう方も多いです。そういう意味では早く解決できることは、かなりメリットがあります」 ――情報や写真が拡散されるのを、以前より早く止めることもできるということですよね。 「そういう意味も含め、早ければ早い方がいいですね。時間がかかるのは、もっぱら海外法人の対応の遅さが原因なんです」 ――弁護士として、より早い解決のため、法律の改正など望むことはありますか? 「ひとつは、ログの保存期間を長くしてほしいということ。第3話で、保田弁護士が開示請求の相手を100人に限定するよう助言しましたが、これもログの保存期間の問題です。ログの保存期間は、法律上は定められてないため各事業者に任されています。今は3ヵ月ぐらいで消えてしまうことが多いです。 例えば、Xでトラブルがあったとすると、Xから情報開示を受けて、その情報を基にプロバイダに対して開示請求するところまでを、3ヵ月以内にやらなければなりません。Xから情報開示を受けても、時間が経ってしまうとプロバイダ側にはログが残っていないため諦めざるを得ないケースもあります。ログの保存期間が半年~1年あれば、やれることがすごく増えるんです。 もうひとつは、XやGoogleなど海外事業者の対応を改善してほしいです。海外事業者の対応が非常に遅いのは、日本が甘く見られているからだと考えられます。相手がEU諸国のケースだと、対応しなかった場合の課徴金が高額なので迅速に対応しているのですが、そうではない日本は後回しでいいという判断になっていると思います。 今は早くても1ヵ月半ぐらいかかるのですが、例えば、“開示請求を受け取ったら2週間以内に対応しなければならない”など義務付けられれば、もう少し物事が早く進むのではないでしょうか」 ――そうしたネットの普及にともなって起こる新たな問題に対応できるよう、近年、ネットに関する法律が改正されているんですね。 「そうですね。改正プロバイダ責任制限法(※注)も、今年の5月に成立して1年以内に施行されることになっています。さらに改正する話も具体的になってきているので、またすぐ改正されると思います」 ※注:2024年5月17日、これまでの「プロバイダ責任制限法」を改正した「情報流通プラットフォーム対処法」が公布された。 ――清水弁護士がご担当されている木村花さんの件では、‘21年に誹謗中傷をした男性に賠償金支払い命令が出たにもかかわらず、まだ支払われていないという記事を読んだのですが、その後、進展はあったのでしょうか? 「いくつか担当している中で支払われたものもありますが、花さんの直接の死亡の原因になった件については払われていないものがあります」 ――相手に支払い能力がないということですか? 「そうですね。支払い能力がない場合は財産開示という手続きもあり、それを使ったこともありますが、今のところまだすべては回収できていません。このまま諦めるつもりはないです」 ――被害者は辛い目にあっているのに、加害者は逃げ果せるようなことは許しがたいです。法律を改正したら、そうした問題の解決にもつながるのでしょうか? 「これはネットトラブルに限らず、裁判で賠償が認められても国が代わりに回収してくれるわけではないので、なかなか難しいです。税金のように徴収してくれるようになればいいのでしょうが…」