自分が母親に向いているかわからない…。不器用な母がたどり着いた答えとは?『母ですが妻やめました』
自然豊かな葉山の町を舞台にした長期連載コミックエッセイ『夫ですが会社辞めました』。同じ保育園に通うさまざまな一家の夫婦関係・家族の在り方が描かれています。多くの共感を呼び、WEB連載は累計4,000万PVを超える注目作です。 【漫画を読む】『母ですが妻やめます』を最初から読む 会社を辞めて「主夫」になった男性と「大黒柱妻」の一家を主人公に描いたシリーズ第1弾に続き、本作はシリーズ第2弾。 「ダメ親だと思われたくない」「私って子育てに向いてない」「もうヤダ」…育児をしながら、こんなふうに悩んだことがある人は少なくないですよね。主人公・理恵も、そのひとり。さらに、一緒に協力してくれるはずの夫は遊んでばかりで…。 理恵と同じように悩む人たちに、本作を通して著者・とげとげ。さんが伝えたい思いとは? ■私はきっと母親に向いていない… 夫・亮と5歳の娘・ナナと3人で暮らす主人公・理恵。 ナナは保育園で友だちを叩いてしまったり、じっとしていられなかったり、困るような行動が多く、夫は地元の友だちと遊んでばかりで保育園の行事にも参加せず、ほとんど家にいません。育児への悩みと、夫への不満で、いつもイライラ…。 さらに、理恵自身も人付き合いが苦手でママ友とうまく馴染めず、「もしも母親適性検査なんてものがあったら、私はきっと不合格だ」と追い詰められていってしまいます。 ひとりきりだと思っていた理恵ですが、同じ保育園に通うさまざまな家族や職場の人との交流を通じて、少しずつ前向きな気持ちが芽生えてきます。 そして、夫との離婚も考え始めますが、正社員として働いた経験もありません。 仕事やお金や向上心もない母親が、夫がいなくてもやっていける…? 不器用な母親が成長していく、再生の物語が描かれています。 ■完璧な親でなくていい!価値観にとらわれず子育てを ――作中の「ママは家事・育児ができて当たり前で、パパは少しのことで褒められる…」という気持ちは、共感する人も多いのではないでしょうか。こういった認識について、とげとげ。さんはどう思われますか? とげとげ。さん:これは、女性に限らず男性にも言えることではないでしょうか。シリーズ第1弾『夫ですが会社辞めました』のカズくん一家の漫画についたコメントでは、『仕事を探す努力をしろ』など、『主夫』を責めるようなものも多くありました。きっと『主婦』ならこんな風に言われないのだろうと思うと、やっぱり一度根付いた価値観を変えるのは難しいなと感じます。ただ、価値観は育った時代や環境の影響が大きく仕方がない部分もあるので、個人を責めるのではなく、価値観を変えられる人から言動を意識して変えていくしかないだろうなと思います。 ――主人公の理恵も最初は、そういった価値観からのプレッシャーで、自分は母親に向いていないと感じていますね。とげとげ。さんも、同じように感じたことはありますか? とげとげ。さん:しょっちゅうです。子どもより自分を優先してしまうときや、手厚く子どもをフォローしている親を見たとき、子どものための人間関係を器用に築けている親を見たとき、短気ですぐに声を荒げてしまうとき…。あげたらキリがないです! ――それでも、理恵は少しずつ前向きな考え方に変わっていきますね。作中の理恵のように、「完璧な親でなくても良い、気張って無理しなくても良い」と、とげとげ。さんが気づいたきっかけやタイミングは? とげとげ。さん:作中の理恵のように、しっかりしてそうな人の抜けている部分、ダメな言動などにホッとし、親近感を抱くことがありました。そのとき、無理しなくてもいいのではと思うようになりました。 ――とげとげ。さんの実体験だったのですね!他にも、作中でとげとげ。さんが実際に体験したエピソードなどは描かれていますか? とげとげ。さん:理恵親子と、同じ園に通っているカズくん一家、ソラくん一家が、子どもたちを連れて山登りをする話があります。その中でカズくんママが『自分達はいい親してる』と自分を褒めるシーンがあるのですが、子どものために何かできたときは、私も作中のカズくんママと同じように冗談っぽく言ったりします。 ■作品を読むことで、肩の力を抜くきっかけになれたら ――この作品を通してとげとげ。さんが伝えたいこと、読者に感じてもらいたいことは? とげとげ。さん:不器用で社交的でなく、濃い人間関係は築けなくても、同じ時間を共有することで自然とできるつながりもあると思います。浅いつながりで、派手な仲間感はないかもしれません。でも時間をかけて自然と築かれる関係は、人付き合いに苦手意識がある人にも辛くないものになるのではないかと思いました。 辛い状況で視野や考えが狭まっているとき、たまたま会った人との些細な会話で気分が切り替わり、心が軽くなった経験が私は何度もあります。そんな気持ちのベクトルが内側から外側へ向かうきっかけや感覚を表現したくて漫画にも盛り込んでいます。この漫画が気分の切り替えのきっかけになってくれたら嬉しいです。 ――最後に、読者にメッセージをお願いします。 とげとげ。さん:辛い時や何かに迷っている時、『この人(理恵)でもなんとかなったなら私も大丈夫かな』なんて肩の力を抜くきっかけになれたら嬉しいです。シリーズ第2弾を出せたのも、読んで応援して下さった読者の皆さんおかげです。ありがとうございました。 * * * 主人公・理恵のように、子育てをしていると、周りの親が輝いて見えたり、どうして自分だけできないんだろう…と思うことって、ありますよね。ご自身も2児の母である、著者・とげとげ。さんだからこそ、そういったリアルな気持ちに共感できる本作。こちらの作品を読んで、肩の力を抜いてみませんか? 取材・文=松田支信