試練の2020年自動車産業 CO2規制が厳格化「95グラムの壁」
さて、まずはそうやって成績不良のクルマをラインナップから消し去って、次に何をやるのだろうか? ひとまず商品をA群とB群に分けて考えて見よう。A群とB群の間に横たわるのは95グラムの深い谷だ。つまりCAFEにおいて成績を引き上げる側にあるシステムがA群。逆に成績を引き下げる側にあるのがB群だ。 現在、A群に入るのは、BEV、燃料電池車(FCV)、PHEV、HVだ。まあそのほかにも、天然ガスや液化石油ガス、バイオ燃料など種類だけはキリ無くあると言えばある。しかし未来の話はともかく、現状で考える限りプライベートカー用としてはどれも泡沫候補感が拭えない。 B群に目を移せば、目標とする平均値を下回るため、成績を引き上げるまでは行かないが、足を大きく引っ張らないシステムとしてマイルドハイブリッド(MHV)やディーゼルがある。 つまりA群を増やすとともに、B群の中で足の引っ張り具合がマシなモデルに順次シフトしていく作業が行われる。各自動車メーカーはそれらのミックス比率を考えつつ、トータルでの平均値をどの辺りに着地させるか、つまり罰金の支払い額と売上のバランスを考えるのである。 売り上げのためには1台でも多く売りたい所だが、成績を大きく下げるクルマによって課せられる罰金は、その車種のみならず、全販売台数に掛けられるので、乗数的にかさんでしまう。かと言ってA群の中で成績優秀なシステムは大抵原価が極めて高く利益が出ない。BEVはその典型である。「バッテリー価格は革命的に下がる」という人はいるが、ならば今すぐ下げてみせてもらえれば、一気にBEVの時代になる。各社がBEVを当てにするのは値段が下がってからだ。 つまり、巨額の罰金で経営を左右するCAFE規制に関しては2025年くらいまではEVはあまり役に立たない。そこからインフラや価格を含めたBEVの性能の改善によって徐々に役に立ちはじめる。早ければ2030年くらいに、遅ければ2040年あたりにBEVが街を走るクルマの主流の一角に加わる時代がやってくると考えるのが妥当だ。ただし、それまでにCAFE規制の根拠となっている「パリ協定」が覆されることがなければという条件が付く。 つまり自動車メーカーは、インフラ整備やバッテリー性能をよくよく見定めて、規制値の変化に合わせて、年度毎に各種の環境システムを搭載したクルマをどの位の比率で売るかを戦略的に決め、販売をマネージメントしなくてはならない。 2020年、自動車メーカーは、売上グラフをいかに伸ばすかではなく、さまざまな条件を勘案して販売数量を調整するというかつてない舵取りを経験する事になる。経営の舵取りがこれまでになく難しい時代を迎えるのだ。 --------------------------------------- ■池田直渡(いけだ・なおと) 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。自動車専門誌、カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパンなどを担当。2006年に退社後、ビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。現在は編集プロダクション「グラニテ」を設立し、自動車メーカーの戦略やマーケット構造の他、メカニズムや技術史についての記事を執筆。著書に『スピリット・オブ・ロードスター 広島で生まれたライトウェイトスポーツ』(プレジデント社)がある