試練の2020年自動車産業 CO2規制が厳格化「95グラムの壁」
細心の注意が求められるCAFE対策
一方でシェア40%(トヨタの実績値)のハイブリッド(HV)がCO2を40%削減すれば、16%の削減が可能な計算になる。トヨタだけが2020年規制をクリアできる理由はたった一つ。HVを売りまくっているからだ。逆に言えばBEV推しのメーカーが罰金で困る理由はBEVがちっとも売れないから。もうそれだけのことである。単独で環境性能が優れているから偉いのではなく「性能×売れた数=環境貢献」なので売れることも重要な環境性能なのだ。 そしてトヨタはHVのシェアをもうすぐ50%に引き上げそうだし、最新モデルだけに関して言えば、CO2の削減率も50%に近づいている。皮算用的には25%の削減である。 「そうかBEVは役に立たないのか?」と思う人がいると困るのでそれも否定しておかなくてはならない。正確に説明しようとすればするほど、本当にこの話は面倒くさいのだ。 CAFEとそれに類する規制の削減目標値は、これからもどんどん厳しくなっていく。おそらく2035年か40年くらいの時点で、BEVにしかクリアできなくなる。だから中長期視点ではBEVが重要なのは明らかなのだ。 しかしながら今年、来年のクレジット問題の解決には全く間に合わない。目前の罰金対策には、例えつなぎであろうとも、HVなりディーゼルなりの技術がどうしても必要だ。各社のその対策は後手に回っているが、数年後にトヨタからHVシステムを購入する会社が一気に増えるだろう。トヨタが昨年4月にHV特許を公開したのはそのための布石である。 さて、そんなわけでトヨタを除く全ての自動車メーカー(除くBEV専業メーカー)は今年からの成績によって莫大なクレジットの支払いに経営を圧迫され始める。HVをデビューさせて台数を売りさばくまでそれはもう今更避けられない。ではそれまでの間どういう手を打つのだろうか?
自動車メーカーの経営はより高度な舵取りが求められる
罰金を減らす最も簡単な方法は、自社のラインナップの中でCO2排出量が多いクルマを売らないことだ。もちろんそれで規制をクリアできるわけではないが、クレジットを減らすことならできる。即時出血を減らせる策はこれしかない。 さてその時どうなるか? 平均値を向上させるのが目的なので、一番成績が悪いモデル、つまり足を引っ張っているモデルの廃止が最も効果が高い。 一応CO2排出量は車両重量(これも加重平均)によって多少の減免がある。つまり重いクルマが多少CO2を余分に出すのはやむを得ないという考え方が規制には織り込まれている。逆にいえばBセグやCセグにハイパワーなターボエンジンを搭載するのは自殺行為になる。何故ならば車両重量平均を引き下げつつ、平均CO2排出量を増やすからだ。 いわゆる「軽量でパワフル」なクルマは今後存続が難しい。だからそういう性格のクルマが真っ先に淘汰されていく。逆説的に言えばトヨタがスープラやGRヤリスのようなCAFE的に厳しいクルマを発売できるのは、大量のHVを売って規制をクリアし、余力があるからに他ならない。余談だが、こうしたスポーツ車のファンは、HVのユーザーを馬鹿にしている場合ではない。スポーツ系モデルの存続はHVを購入してくれるユーザーのおかげだ。