試練の2020年自動車産業 CO2規制が厳格化「95グラムの壁」
EVの現状
「でも、ほとんどのメーカーが規制をクリア出来るんでしょう?」と思うのは大間違いで、話はあべこべだ。現時点で2020年規制をクリアできる見通しを発表しているのは、限られたBEV(バッテリー電気自動車)専業メーカーを除けば、世界中でトヨタだけだ。 ちなみに世間でざっくり電気自動車といわれているEVとは、外部電力からバッテリーに蓄電したエネルギーのみで走行するクルマを指し、より正確に言えばBEV(Battery Electric Vehicle=バッテリー電気自動車)という。
「なるほど、だから世界がどんどんBEV化に向かっているんだ」という理解も残念ながら間違い。確かに長期的には脱炭素社会の実現に向けてBEV化は進めて行かなくてはならないが、大きな障害がある。 バッテリーの製造コストと、供給力の改善がまだまだなのだ。実はこの記事の執筆に際して、ずいぶんとBEVの世界シェアを調べたのだが、近年の数字がほとんど出てこない。トヨタやマツダのような世間で「アンチBEV」と見なされているメーカーからのデータしかない(実態は決してアンチBEVではないのだけれど)。 BEV推進派のデータは、年を追うごとにBEVとプラグインハイブリッド(PHEV)の合計で表記することが当たり前になっている。まあ、PHEVだって、充電航続距離以内で使っているならば、実質的にはEVと見なせるが、発電専用エンジンならまだしも、れっきとした動力用エンジンが搭載されているものをあたかも同じもの扱いしてBEV総数に加えるのはインチキのにおいがする。 こうした統計の数値は、EV原理主義者のいう「発電エンジンや動力エンジンを搭載できるレイアウトはもはや古くさい」という主張とは全く相容れない。「エンジンを積む余地を残したEVのパッケージなんてダメだ」と主張しつつ、BEVより販売台数の多いPHEVとの合計の数値を平気でBEVのデータとして使うのは言動の不一致感が強い。EV原理主義の方々は是非BEV単独での統計を各社に強く訴えて欲しいものだ。 さて、クロスチェックして色々な立場の人が発表する資料に当たれていないことを前提にいえば、現状のグローバル市場におけるBEVのシェアは0.6%程度だと考えられる。 先ほどの加重平均の概念でいえば、わずか0.6%の母数のBEVがCO2削減率100%(近年ライフサイクルアセスメント《※2》の考え方が新たに主張されはじめ、BEVをゼロエミッションと見なすことには異論が出てきている)と仮定しても、削減率は0.6%にしかならない。実績値での貢献は極めて限定的だ。 (※2)ライフサイクルアセスメント…ある製品の環境負荷について、生産段階だけではなく、原料の調達から流通、使用、廃棄などすべての段階を通して評価する手法