なぜ森保監督は移籍先が宙に浮いている浅野拓磨を招集したのか?
今週末にそれぞれのリーグ戦を戦い終えたヨーロッパ組が順次帰国してくるなかで、浅野はどこで何をしているのか。トラブゾンスポルとの交渉後はトルコ南西部のリゾート地アンタルヤでオフを取り、心身をリフレッシュさせているとも報じられた浅野の近況に関して、反町委員長はオンライン会見でこう言及している。 「彼はいま日本にいて、代表に備えてしっかり準備しています」 新型コロナウイルス禍で何度も延期されてきた2次予選で、5戦全勝でグループFの首位に立つ日本はミャンマーに勝てば突破が決まる。9月に幕を開ける予定のアジア最終予選をにらみ、6月の4試合はチーム力を底上げする舞台となる。 特に森保ジャパンが初めて対戦するヨーロッパ勢であり、最新のFIFAランキングでも25位と日本の28位を上回るセルビアとの国際親善試合は、代表チーム内における選手個々の序列を上げていく上でも絶好のチャンスとなる。 「ヨーロッパのチームと対戦したいと思い、ユーロが開催される時期に、ユーロに出場しない国のなかで最も強いセルビアにスポットライトをあてて交渉してきました」 反町委員長がマッチメイクの意図を説明すれば、名古屋グランパスで選手および監督として活躍し、今年3月からはユーロ出場を逃したセルビアの再建を託されたドラガン・ストイコビッチ監督と、ともに立場を変えて再会する一戦を森保一監督も喜んだ。 「(名古屋では)選手に美しさと勝利へ向けて貪欲に、タフに戦う姿勢を求めていると感じていた。お互いが国を代表して戦えることを幸せに思う」 最終候補に残りながら、浅野はロシアワールドカップの代表入りを逃している。いまも悔しさを忘れていないからこそ、来秋のカタールワールドカップ挑戦への視界を良好にするためにも、今回の5連戦には期する思いで臨んでくる。 同時に対戦国のなかに、つい最近までプレーしたセルビアが含まれている点にも運命的なものを感じているはずだ。パルチザンとの一件はセルビア国内でも大きく報じられ、浅野の行動を否定したメディアやパルチザン関係者もいた。 初陣だった3月のワールドカップ予選でストイコビッチ監督が招集した30人のうち、他のヨーロッパ諸国でプレーする選手が28人を数えた。現時点では、パルチザンをはじめとする国内組を日本戦へ招集するかどうかはわからない。 ただ、今回の対戦が決まったときから、セルビア国内では「日本で興味深い再会が見られるかもしれない」と報じるメディアもあった。それでも反町委員長は、ピッチ外の雑音には耳を貸さないタイプだと浅野へ信頼を寄せた。 「集合したときに(所属チームが)どうなっているのかは私にはわからない。ただ、代表活動に呼ばれたからにはしっかりやると約束してもらうし、彼のパーソナリティーを考えれば、それは当たり前のことだと思っています」 ミャンマー戦へ向けて森保ジャパンは24日から活動をスタートさせる。ヨーロッパとの時差ぼけもすでに解消させ、コンディションも整えているはずの韋駄天FWは、久しぶりに仲間とボールを追うピッチで初日から全開の姿を見せてくれそうだ。 (文責・藤江直人/スポーツライター)