「なんで賃上げできないんですか?」上場企業のトップや中小企業経営者、労働組合関係者に聞いて回った!
「小売業を営む零細企業社長としていえるのは、間接税、中でも消費税の負担が大きすぎること。消費税は決算を締めた後に支払う必要がありますから、納税分の現金は社内にストックしておかなければならないんです。 常に資金繰りがカツカツな零細にとって、この制度設計は地味に痛い。食品小売業はもともと利益率が低い業態で、売り上げの5%が利益になればいいほう。うちの会社の場合、利益の半分以上が実質的に消費税に持っていかれているので、継続的にベアをするのは本当に厳しいですね」 大企業と下請け企業の取引関係は改善に向けた取り組みが進んでいるが、税制は現状に即しておらず、対応が遅れていると小倉氏は訴える。 「また、ベアをするとなると、地味に社会保険料の存在も大きいですね。ざっくり計算して、給与に2、3割ほど負担が上乗せされますから」 社会保険料などへの不満から、多くの社員を業務委託契約に切り替えた経営者もいる。ITベンチャーを3社経営するD氏は、一時期6人雇用していた正社員を、今はひとりまで減らしたという。 「社会保険料が高いのと、解雇規制が厳しいのが時代に合ってないんですよね。基本給は一度上げたら下げづらいし、業績が一時的に落ち込んだときに人を減らせないのはリスクが大きすぎる。 関われる時間や上げた成果に応じて臨機応変に給与を変動してもらえることに魅力を感じる人も一定数いますから、形式上退職してもらって業務委託に切り替えてもらいました」 ■経営者が最も嫌がるプレッシャーのかけ方 ここまではすべて非上場企業の話だったが、多くの株主を持つ上場企業から見た景色はどうだろうか。東証プライム市場に上場するソフトウエア開発会社・サイボウズの青野慶久社長に、株主と労働者への還元のバランスについて聞いた。 「上場企業の経営者は、株を保有する機関投資家からプレッシャーがかかります。それと比べると、労働者からかかるプレッシャーは弱かったんですよね。 こうした構造があるので、どうしても株主に応えざるをえなかったということは一般論としてあると思います。うちの会社は株価ではなく、配当で応えるという方針を打ち出しており、納得できない方は株を手放してもらっても構わないと覚悟をしていますが。 最近の賃上げは経営者の意識が変わったというよりは、人手不足が大きいでしょう。実際、サイボウズからも『給料が倍もらえるから』といって外資系企業に転職した社員もいますからね」