「なんで賃上げできないんですか?」上場企業のトップや中小企業経営者、労働組合関係者に聞いて回った!
上場企業の業績は3期連続で絶好調。なのになんでこんなに賃上げが広がらないの? 足を引っ張る"悪者"はどこにいる? 上場企業経営者、労働組合など、この問題に関わるあらゆるプレイヤーに総力取材して徹底的に考えた! ■企業の稼ぐ力はむしろ成長している インフレが続いている。しかしインフレ自体は決して悪いことではない。日銀も政府も、物価上昇率2%を長らく目標として掲げてきたからだ。 ただし、インフレは低賃金と一緒に起きると問題になる。そのため岸田前政権は何度も賃上げの要請をしていたし、石破総理も所信表明演説でその方針を受け継ぐとした。 そうしたかいもあってか、6月には実質賃金(物価上昇率を加味した賃金上昇率)はプラスに転じた。ところが、この傾向は長くは続かない。6、7月はボーナスを出す会社が多かったことが大きく、その時期が過ぎた8月には再びマイナス0.6%に転じたのだ。 賃上げムードはこのまましぼんでしまうのだろうか? この問題を考える上で、不思議とほとんど議論されないことがある。賃上げの元手だ。 本題に入る前に、データを3つだけ見ておきたい。ひとつ目は、上場企業の業績である。2024年3月期の純利益は、なんと3期連続で過去最高益を更新する見通しだという。上場企業に限っていえば、懐は潤っているのである。 ふたつ目は労働分配率だ。これは企業が生み出した付加価値のうち、労働者にどのくらい還元されているかを示す割合である。 今年1月末に経済産業省が発表したデータでは、労働分配率は前年度比で0.3%低下している上、直近の推移を見ても、数値はじわじわ下がりつつある。朝日新聞の調査によれば、大企業に限ると昨年度は過去最低の水準に落ち込んでいたという。 では、企業の儲けはどこに消えているのか? そこで最後に示すデータは、配当を増やす上場企業の数だ。日経新聞の報道によると、25年3月期に増配を計画する企業は全体の約4割にも及び、これは過去最高だという。 配当総額も前期比8%増の約18兆円と、4年連続で過去最高となる見通しで、中には三井物産や森永乳業など、減益予想なのに増配する企業もある。