全国高校サッカー選手権で見るべき5人の逸材
【藤井陽登】(栃木・矢板中央3年/GK/182cm・75kg) 1年生からゴールマウスを守り続ける守護神が、早くも伝説を打ち立てた。 昨夏のインターハイで準優勝した米子北(鳥取)と対峙した昨年大晦日の2回戦。後半アディショナルタイムに2-2の同点に追いつかれ、そのまま突入したPK戦でもともに2人目が蹴り終えた時点で1-2とリードを許していた。 初戦敗退が脳裏をかすめる絶体絶命の大ピンチから、米子北の3番手、4番手、5番手のPKを立て続けにセーブ。奇跡的な逆転勝利のヒーローになり、関東一(東京B)が待つ2日の3回戦(フクダ電子アリーナ)進出を手繰り寄せた。 過去3大会で矢板中央があげた8勝のうち、半分の4試合がPK戦によるものだ。1年時の「12番」を2年時から「1番」に変え、最上級生になってからはキャプテンも務める守護神は、PKストップの秘訣を選手権の経験に基づいてこう語る。 「キッカーより先に動かないことを意識しながら、あとは相手との駆け引きですね」 青森県出身だが、高校進学時に生まれ故郷を離れた。理由は単純明快。全国の舞台で青森山田を倒す目標は、前回大会の準決勝で喫した0-5の大敗で一度は砕かれた。 今大会で顔を合わせるとすれば決勝となる。2大会連続で進出したベスト4を超える、チームがまだ見ぬ舞台を見すえながらゴールマウスに君臨し続ける。 【チェイス・アンリ】(福島・尚志3年/DF/187cm・78kg) PK戦にまでもつれ込んだ試合は、結果がどうであれ、公式記録上では引き分け扱いになる。なので、瀬戸内(広島)との1回戦、関東一(東京B)との2回戦でともに0-0からPK戦に臨んだ尚志は、今大会において負けてはいない。 しかし、トーナメント戦でどちらが次に進むのかを決めるPK戦で1回戦は笑い、2回戦では泣いた。そして、後者の瞬間にU-22日本代表に飛び級で抜擢された、アメリカ人の父と日本人の母の間に生まれた逸材の高校サッカーが終わりを告げた。 幼少期を過ごした父の母国アメリカから、中学1年時に母の故郷である神奈川県へ移住し、同時にサッカーを本格的に始めた。競技歴がまだ浅いゆえに荒削りで雑なプレーが顔をのぞかせるが、見方を変えればまだまだ伸びしろを残している証でもある。 しかし、恵まれた体躯に秘められた規格外のフィジカル能力だけが、卒業後の獲得へ向けて、国内外のプロクラブに名乗りを挙げさせている理由ではない。 しつけに厳格だった父からは「上には上がいる」と、謙虚に学び続ける大切さを説かれた。周囲よりも遅く始めたサッカーで、父の教えは常に生きている。 「努力すれば成功につながる。それが本当に嬉しいから、もっと努力したくなる」 尚志の仲村浩二監督も「彼の最大の才能だと思う」と称賛する、周囲の助言をしっかりと聞く姿勢を、プロとしての第一歩が国内外のどこになっても貫いていく。 (文責・藤江直人/スポーツライター