「1200万円」の預金がある70代男性に「生活保護」が適用されたワケ
老後、事故や病気で病院に担ぎ込まれた時に、頼れる人はいるだろうか。そもそも、意識不明の状態だったら、誰かに連絡をとることも難しい。なかには、死亡後も身寄りが見つからず、無縁仏とされる人もいるという。そうした高齢者が抱える現実とは。※本稿は、沢村香苗『老後ひとり難民』(幻冬舎新書)より一部抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 普通に暮らす高齢者が 突然「老後ひとり難民」に 高齢期に起きる問題は介護の場面に限りません。 多くの人が自分事として心配しているのは、おそらく「認知症になったらどうしよう」ということではないでしょうか。また、イメージしやすい老後の問題として、「老後資金が枯渇したらどうしよう」という心配もありそうです。 では、認知症のリスクが低く、お金の心配もないという人であれば、安心といえるでしょうか。 ひとり暮らしであっても自立した生活ができており、「現時点ではお金には困っていない」という高齢者の方もいると思いますが、実はそのような人の生活にもさまざまなリスクが隠れています。 自分が「老後ひとり難民」になっていることに気づかされるのは、転んでケガをして動けなくなったり、病気で急に倒れたりして、病院に運ばれたときです。 入院する際、身元保証人になってくれる人がいないと、受け入れてもらえる病院が見つかるまで、たらい回しにされるケースもあります。 入院できたとして、家にある入れ歯や着慣れたパジャマを持ってきてくれる人はいるでしょうか。コンビニで払っている携帯電話料金は、誰が払いに行くのでしょうか。「甘いものが食べたい」と思ったとき、買ってきてくれる人はいるでしょうか。治療費や入院費の支払いはどうすればいいでしょうか。
親族のなかにそれらの対応をしてくれる人がいそうだと思っていても、倒れたときに意識を失うなどして意思表示できる状態になかったら、親族には誰がどのように連絡してくれるのでしょうか。 昔であれば、病院などが電話帳を調べて連絡できるケースも少なからずありましたが、近年では携帯電話の普及によって家に固定電話を置く人が減り、電話帳では調べられないケースが大半です。 本人の意識がない場合、「半年や1年に一度くらいは連絡を取り合う」という程度のつき合いの親族がいたとしても、スムーズに連絡がつかない可能性は高いはずです。 無事に退院できることになったとして、今までのように身体の自由がきかなくなっていたら、その後の生活はどうなるのでしょうか。 階段や段差が多い家に住んでいたりすれば、転居を考える必要が生じるかもしれません。 また残念ながら、入院しても亡くなってしまう場合もあるでしょう。そのとき死亡届を出したり火葬の手続きをしたりしてくれる人はいるでしょうか。 仮にいるとして、病院などから、確実に“その人”に連絡はつくのでしょうか。住んでいた家や財産は誰がどのように処分することになるのでしょうか。 ● 兄弟に支援を頼めなかった 70代独居男性 近年、高齢のひとり暮らしの方が、本人が想定していなかったであろう最期を迎えたケースがニュースでよく取り上げられています。 例として、2024年3月、朝日新聞デジタルでは「身寄りなき最期と向きあう」というテーマで複数のケースを取り上げました。 たとえばボランティアで街路樹の剪定中に脳梗塞を発症し、高所から転落、右半身不随となった70代の独居男性の場合、男性には複数の兄弟がいたものの、支援を頼める人はいなかったといいます。 1200万円の預金を持っていたにもかかわらず、意思疎通ができないため市や病院がそのお金を使うことは難しく、結局、市の判断で生活保護を適用して医療費などを支払ったそうです。 同じ連載で私が取材に応じた記事では、80代の独居男性が買い物帰りに倒れ、心肺停止状態で発見されたケースが紹介されました。男性は病院に搬送(はんそう)後、意識が戻らず、数日後に亡くなりました。 婚姻歴はなく子どももおらず、いとこは関わりを拒否。海外に住む姪(めい)とは連絡がついたものの、火葬や納骨は市に一任されました。火葬の際には親族や知人の姿はなく、遺骨は一時的に市の職員が預かり、数ヵ月後に一時帰国した姪が同意書に署名した後、やっと納骨にこぎつけたそうです。