感染拡大リスクある中でなぜ五輪? 2年ぶり党首討論、菅首相は明確に答えず
2年ぶりの開催となった6月9日の党首討論は、新型コロナウイルス感染の収束が見えないまま東京五輪の開幕まで50日を切った中で行われた。菅義偉(よしひで)首相は「安心安全な大会にしたい」と五輪への意気込みを口にしたが、専門家からも懸念が出ている五輪による感染拡大リスクを抱えながら開催する意義について明確に語ることはなかった。 【中継録画】菅首相、ワクチン接種「10月~11月にすべてに終える」2年ぶり党首討論
「国民の命と安全を守るのは私の責務」
「新たな感染拡大が起これば、それに伴って重症者が増える。そして亡くなる人が増える。そうまでして五輪を開催しなければならない理由は一体何なのか」 この日4人目の野党党首として登壇した共産党の志位和夫委員長は、東京五輪・パラリンピックによる人流増加で新たな感染拡大の危険があると指摘し、首相の意図をただした。 その前提として、政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長の国会答弁を紹介した。「尾身会長は、たとえ五輪の競技会場の中での感染拡大が抑えられたとしても、五輪を開催することで3つの点で人の流れが増えると指摘している」。 1つ目は「全国から五輪競技会場に観客が移動すること」。緊急事態宣言レベルの制限を行っても観客数は延べ310万人になるとの試算もあるとした。 2つ目は「競技会場の外で行うさまざまなイベントに観客が集まること」。東京大会組織委員会などが主催するライブサイトが19自治体・30会場で、全国の自治体が主催するコミュニティライブサイトが145自治体・227会場で計画されている実態を紹介し、「大規模な人の流れが起こることは必至だ」と訴えた。 最後は「夏の4連休やお盆で感染を避けようと都会から地方への人の流れが起こること」。過去1年以上にわたるコロナ対策で、都市部からの人の流入によって地方に感染拡大した経験を何度もしてきたといい、「こうした事態が大規模に起こることになる」と警告した。 その上で「五輪を開催すれば今より感染リスクが高くなるのは普通だ」とした尾身会長の発言を踏まえ、「そうまでして五輪を開催しなければならない理由をどう説明するか」と聞いた。 時折資料に視線を落としながら質問を聞いていた菅首相はおもむろに立ち上がり、「尾身先生の話があった。尾身先生については西村(康稔)大臣が毎日のように緊密に意見交換しており、私も報告を受けている。当然、尾身先生のご意見も参考にして感染対策の詰めを行っていくことになるだろう」とはぐらかした。 それを聞いた志位委員長は「私が聞いたことに答えてない。私が聞いたのは、いま命をリスクにさらしてまで五輪を開催しなければならない理由だ」と再度回答を求めた。 菅首相は「国民の命と安全を守るのは私の責務だ。そうでなければ(開催)できないということを私は申し上げているんじゃないでしょうか。守れなくなったらやらないのは当然だと思いますよ。それが前提だと先般申し上げた」とこれまでの答弁を繰り返した。 志位委員長は語気を強めて指摘した。「(首相は)まだ五輪をやめると言ってないでしょう。それをなぜ開催するのかの理由を聞いたがお答えがない」。