新しい美食の潮流、デスティネーションレストランの未来を担う若き実力派シェフの世界観に迫る
片山:当時からコンセプトは変わってないですね。 本田:あの当時は、まだ、デスティネーションレストランという発想そのものが日本にはなかった。一部にそういったレストランをやっている人はいたけどね。だから、最初、上州キュイジーヌって聞いた時、この子、何言ってんだと思ったぐらい。でも7年前ぐらいからそういうことを掲げて、実行していたのは、今思えば、先見の明というか、すごいことだよね。 片山:いやいや、そんなすごいことではないです。
本田:元々、高崎に戻ろうと思ったのは、フェルナン・ポワン(フランス料理の神様と言われる伝説のシェフ)の「若者よ、故郷に帰れ」という言葉からだよね。「その街の市場に行き、その街の人のために料理を作れ」。でもあの当時そんなことを言って、群馬で店やっても誰も理解してくれないじゃん。今なら「デスティネーションレストラン。地元の食材を使ってすばらしい」となるけど、あの当時は、お客もそういった考えについてくる時代じゃなかった。よくそんな時に上州キュイジーヌをやったよね。
片山:フェルナン・ポワンの言葉がどうしても僕の心にあって。偉大なシェフの下から名シェフたちが故郷に戻り、それぞれの地方で店を成功させて、三つ星を獲得するというストーリーが、すごく美しく見えたんです。僕は東京や世界では勝負できないし、自分の器もわかっていた。でも絶対に群馬、上州だったら歴史の1ページを作れるはずだという思いは当時からあったんですよね。それをやり始めたのが7年前。お客様に理解されているんだろうか。毎日がそんな感じでした。上州にこだわらないから、東京のものを出してと言われることもありました。 本田:「別に群馬の食材じゃなくていい」みたいなことを、最初は言われたんだろうなと思う。 片山:「白井屋」でも同じコンセプトを掲げていますが、明らかに、今の方が上州キュイジーヌという認知度が高い。あと、「ゴ・エ・ミヨ」のような外部の評価をいただいたりして、市民権を少しずつ得てきているのかなと思います。7年経って、群馬、上州、前橋にこだわる意味とか、この「白井屋」でやる意味とかが理解され、いろんな人とのご縁もあって、上州キュイジーヌが確固たるものになってきていると思います。 本田:よく、今までコンセプト、折れなかったよね。上州キュイジーヌ、こいつ、何、言ってんだって、多分、思われてたと思うよ。 片山:上州やめた方がいいんじゃないかと言われたこともありました。けれど、1回試させてくださいと言って、なんとか「白井屋」の「the RESTAURANT」の開業にこぎつけました。うれしいのは川手さんがすごく理解してくださって。片山は上州キュイジーヌ、群馬の料理を表現するべきだって言ってくれて、今でもフォローアップしてくれています。そこはすごく誇りや励みになってますね。