新しい美食の潮流、デスティネーションレストランの未来を担う若き実力派シェフの世界観に迫る
片山:素晴らしい! 本田:何がデスティネーションなのか、何が受けるのかというのは、やっぱり外からの目がないとさ、わからない。でも、群馬、いいレストラン、増えてきてるよね。そうなると、シェフたちも増えて、切磋琢磨してもっといいものができるかもしれない。一軒だけ頑張ってもさ、農家や生産者のビジネスもあるから。正論を言っても広がらない。ひろが、最初に上州キュイジーヌで生産者の開拓を始めたのは、群馬にとっても価値のあることなんだなと思う。 片山:そう言っていただけて、うれしいです。ありがとうございます。
片山:コロナ禍の真っ只中での開業だったので、その当時と今との比較は難しいですけど、開業当時より料理は安定してクオリティの高いものを提供できていると思っています。当時より、ホテルあるいはレストラン自体のチームができあがっていて、僕自身の思考の整理だったり、クリエーションのロジックやフォーマットができていて、そこに、川手さんからの刺激や他のレストランのシェフのエッセンスを加えて、バランス感覚が安定してきたかなと思っています。経営的な面でみると、ホテルやレストランの稼働も、前年比でどんどんお客様に来ていただけているという実感です。
本田:もはや、地産地消は当たり前で武器にはならない。自然環境に従うことは料理人にとって必然ということだね。今は、その一歩先に行かなければいけないというのは、確かにある。「白井屋」はホテル自身がアートデスティネーションを掲げている。これも面白い考え方だよね。料理の中でアートはどう表現しているの?
片山:ゲストにとって一番わかりやすいのは、色彩感覚や切り方、フォルムなどのビジュアル的要素が一番大きいと思います。上州キュイジーヌは別にして、「白井屋」らしさというか、アートホテルで食べる意味をビジュアルで表現する。全部じゃないですけど、コース料理の中に鮮やかな色彩や、一見奇抜なビジュアルをはめ込むようにしました。それで、ゲスト満足を捉えつつ、そこにリメイクした郷土料理「おきりこみ」を散りばめて、バランスをとっています。あとは味わいとして、誰が食べても圧倒的においしいフランス料理のベースをテクニックとして使った一品と、香りもテクスチャーも複雑で、考えながら味わう、まるでアート鑑賞をするような一品を入れています。料理はアートだと思ってはいないんですけど、共通する、リンクするような要素は料理にあると思います。映画やアート作品を見た時のちょっとした高揚感をコースの中に意識的に入れ込む。そういったバランスで考えています。 本田:シェフってアーティストだと思うんだよね。美的センスがない人がやると、なかなか難しいじゃない。料理は皿の上のアートみたいな部分もあるから。でもそこに、単なるアートじゃなくて、「おきりこみ」のような群馬的なものを入れながら、アートにしていくというのは、センスがないとできない。「おきりこみ」とフレンチって、一歩間違えると野暮ったくなる。 片山:最近ホテルでは宿泊者向けに夜食として「おきりこみ」を提供しています。メインダイニングでモダンな「OKIRIKOMI」を食べて、ラウンジで夜食として「おきりこみ」を食べる。皆さんにすごく喜んでもらっていて、デスティネーションらしさというか、群馬を感じてもらっています。