災害時にこそ光った「漢方医学」の力 医師が被災地で経験した漢方医学の有効性
漢方医学の有効性
編集部: 被災地の被災者支援において、漢方医学は有効なのですね。 岩崎先生: はい、漢方医学の源流である中国伝統医学には2000年の歴史があり、現在のように医療機器が十分そろっていない時代から人々を治療してきました。その治療で重要な役割を果たしていたのが、「四診」です。 編集部: 四診とはなんですか? 岩崎先生: 「望診」「聞診」「問診」「切診」の4つのこと。望診とは動作や歩き方、顔色や表情、皮膚や爪、頭髪、唇など患者さんの様子を観察して情報を集めること。聞診とは患者さんの声、咳、呼吸音、腸の蠕動音などを聞くこと。 問診とは患者さんから直接症状や経過などを聞き取ること。切診とは患者さんの体に直接触れ、脈をとったり、お腹を触れたり押したりして圧痛などを調べることをいいます。 編集部: すべて、現代のように高度な医療機器を使わずにできることですか? 岩崎先生: はい。だからこそ、被災地では漢方医学が有効なのです。災害時の医療現場で行う診察や治療には限界がありますが、漢方薬を処方したり、鍼治療を行ったり、マッサージをしたりすることは十分可能です。 そのことが、あの東日本大震災の時初めて判明し、それ以後の大きな災害では必ず漢方医や鍼灸師が現地に入って活躍するようになりました。 実はそのことは中国で四川大地震が起きたとき、中医学が非常に有用だったという話として伝わっていましたが、我々日本の医療関係者はその情報に注目していませんでした。 編集部: 最後に、読者へのメッセージをお願いします。 岩崎先生: そもそも日本の漢方医学もその源流の中国伝統医学も最大の課題は疫病、つまり大流行する感染症でした。かつては疫病の原因すら分かっていませんでした。 突然大流行する病気だから何か共通の原因で起きるのだろうということは分かっていましたが、それが何かと言うことは分からなかったのです。 疫病の原因が細菌やウイルスだと分かってきたのは19世紀以降、とくにウイルスに至っては1938年、電子顕微鏡が発明されて初めて発見されたのです。 原因が分からないのですから、患者の病状を詳細に観察し、その共通性を見いだし、また時間経過と共にどのように病状が変化していくかという法則性を発見して、それを基に治療をしたのです。この原理がまさに災害医療には役立つのです。