災害時にこそ光った「漢方医学」の力 医師が被災地で経験した漢方医学の有効性
東日本大震災が発生したとき、災害の被災地では漢方医学が被災者の救助に対し、大きく貢献した(※)ことを知っていますか? 鍼治療、マッサージ、漢方などは被災者の身体的・精神的な苦痛を減らし、復興への歩みを進める原動力になったのです。災害被災地における漢方医学の有効性について、あゆみ野クリニックの岩崎先生に教えていただきました。 【イラスト解説】避難所生活で発症リスクが高まる「血栓症」 [この記事は、Medical DOC医療アドバイザーにより医療情報の信憑性について確認後に公開しております]
漢方医学を用いた、災害被災地での医療支援
編集部: 東日本大震災が発生したとき、被災地では漢方医学が活用したと聞きました。 岩崎先生: 実は私自身、当時東北大学漢方内科の准教授を務めていましたが、漢方が災害医療に役立つなどとは夢にも思いませんでした。 東北大学が沿岸津波被災地に派遣した医療救護班第一便のバスに飛び乗る直前、突然私の頭に「葛根湯(かっこんとう)など風邪の漢方薬や、五苓散(ごれいさん)など下痢の漢方薬はきっと有効だ」とひらめいたのです。 それでバスに乗る直前、東北大学病院前にあり、いつも漢方内科の処方箋を一番多く受けてくれる薬局さんに入って、「悪いけれどこれから被災地に行くからもらっていくよ」と言って、葛根湯や五苓散など、急性疾患に使えそうな漢方薬を棚から鞄にごっそり詰め込みました。 もちろんその時の薬代は後から請求書が来まして、私が自分で支払っていますが、ああいう時はなんでも「臨機応変」でやるしかありませんでした。 編集部: なぜ、被災地で漢方医学を活用したのですか? 岩崎先生: たぶん風邪や胃腸炎が流行るだろうから、「とりあえずそういう病気に効く薬は使えるだろう」と思ったのです。私が参加した第一便は診療もしましたが、主な目的は状況把握でした。 石巻赤十字病院から衛星を使ったテレビ電話で状況は伝えられてはいましたが、やはり自分たちで直接現地に行ってみなければ分からないので、まずは行ってみたわけです。 編集部: 現地を訪れてみて、まずどんな状況に気づいたのですか? 岩崎先生: 当たり前ですが、まず気づいたのは停電しているということでした。東北大学病院はかなり強力な自家発電装置を供えていたので、数日はそれで持ちこたえました。しかし、津波で流されてしまった現地では、一切電気が使えない。 当然、我々が日頃当たり前に使っているほとんどの医療機器は使えません。電気がなくても使える医療機器というのは、手動の血圧計と体温計と聴診器ぐらいでした。心電図だろうとレントゲンだろうと採血検査の測定器だろうと、電気がなければ使えません。 編集部: 現代医学は立ち往生してしまうということですね。 岩崎先生: そうです。ところが、漢方医学では医師が患者さんの脈を触れたり舌を見たり、症状を聞いたりお腹を触ったりして、つまり自分の五感で得られる情報で診断します。 なので、電気が要らないのです。これは、大きな発見でした。自分自身漢方医でありながら、まさに「目からうろこ」でした。 編集部: 具体的に、被災直後にはどのような健康問題が発生していたのですか? 岩崎先生: まず、その災害がいつ、何処で起きるかによって被災地の健康問題は変わります。東日本大震災は3月11日、非常に寒い春に、東北地方を中心に甚大な被害を生みました。 ちなみに、今年の年初に起きた能登(石川県)の大地震も元日、つまり真冬に能登半島という寒冷地で起きています。一方、熊本大地震は4月14日に熊本で起きた、つまり春もたけなわの頃、熊本という温かい地方で起きています。 いずれも何ヶ月から何年にもわたる健康被害を引き起こしましたが、当然寒冷地で冬に起きた震災と、春から夏にかけて温かい地方で起きた震災とでは、生じる健康被害も違います。 編集部: 震災が起きてからしばらくすると、健康問題も変化するのですか? 岩崎先生: はい。東日本大震災の時は被災直後には風邪、下痢などの感染症と低体温症が問題となり、2週間が経過した頃にはアレルギー症状が増加しました。さらに1ヶ月が経過すると精神症状や慢性疼痛などを訴える人が多くなりました。 一方、熊本大地震の被害は夏の間も続いたために熱中症や脱水、食中毒など夏の感染症が起きています。