お金を払って歯を"破壊"しているだけ…何度も歯科医院に通っても、「むし歯」がなくならない本当の理由
治療したむし歯が、再びむし歯になってしまうのはなぜか。歯科医の前田一義さんは「世界基準で見れば“手抜き”ともいえる治療を続けているからだ」という――。(第4回) 【写真】日本ではほとんど行われていないラバーダム治療の様子 ※本稿は、前田一義『歯を磨いてもむし歯は防げない』(青春新書インテリジェンス)の一部を再編集したものです。 ■むし歯リスクを低下させる「ラバーダム治療」 むし歯が初期段階なら、簡単な治療で治すことができます。一方、むし歯が悪化すると、根管治療を施すことになります。 根管とは、歯の根元や歯の神経を指し、根管治療はこれらに施す治療です。むし歯が神経まで達していたり、歯が折れたりした場合に行うもので、歯の神経を抜いたり、根管を洗浄・消毒したり、薬剤を詰めたりします。 根管治療を行うにあたり、スウェーデンをはじめ多くの先進国は「ラバーダム」と呼ばれる青色や緑色ゴムのシートを用います。これをラバーダム防湿といい、治療する歯の周りにラバーダムを取りつけ、治療する歯だけ露出させて治療します。 ラバーダム治療の目的は、治療する箇所に細菌が侵入するのを防ぐことです。口の中には膨大な細菌がいて、どんなに洗浄しようと細菌はゼロにはなりません。患部に細菌が入り込めば、そこからむし歯菌が繁殖し、やがてむし歯が再発することにもなります。 一方、ラバーダム治療なら患部以外をゴムのシートで覆うことで、患部に細菌が入らないようにします。これにより治療後、患部に入り込んだ細菌が増殖し、むし歯が再発するリスクを減らすのです。
■日本の治療方法では、むし歯の再発リスクが高まる ラバーダムは、1864年にアメリカの歯科医師によって考案されました。以後、ラバーダムの有用性が認められ、世界標準の治療法になっています。ところが、驚くことに日本では9割の歯医者がラバーダム治療を採用していません。そのため日本人の多くはラバーダム治療を体験したこともなければ、名前さえ知らないのではないでしょうか。 むし歯の治療で患部を削った場合、充填(じゅうてん)治療や補綴(ほてつ)治療を施します。充填治療は削った部分に詰め物を施す治療、補綴治療は削った部分にかぶせ物を施す治療です。 インプラント治療に比べ、詰め物やかぶせ物をするだけの簡単な治療と思われがちですが、これらの治療も本来はラバーダムを使用すべき治療です。詰め物であれかぶせ物であれ、ラバーダムを使用しなければ、やはり詰め物やかぶせ物をした箇所に細菌が入りやすくなります。その結果、治したつもりのむし歯が再発するといったことにもなるのです。 「やはり一度むし歯になった歯は、またむし歯になりやすいのだな」などと納得してはいけません。ラバーダムを使えば、再発するリスクは減らせるのです。逆にいえば世界では、一度治したむし歯が再び痛むことは、そうそうありません。むし歯を機に歯のメンテナンスをしっかり行うようになれば、なおさらです。 ところがラバーダムを用いない日本の治療では、その後メンテナンスをしっかり行っていても、以前の治療で入り込んだ細菌により、再発することにもなるのです。 ■あまりの激痛に眠れなくなる人も ラバーダムを使わなかったために起こる歯の病気もあります。典型が、根尖(こんせん)性歯周炎です。歯の根元が、細菌により炎症を起こすというものです。 たとえば、むし歯で歯の神経を抜くとき、歯の中に細菌が入ってしまった。これが炎症を起こすのです。本来、歯の中にバイキンはいません。ラバーダムをしないことで病気が起こるわけです。 炎症が慢性化しているときは痛みを感じませんが、急性化すると激痛に襲われます。私の患者さんの中には、「あまりの痛みに3日間眠れなかった」と訴える人もいました。あるいは顔面が腫(は)れ上がり、顔の形が変わるほどだった人もいました。いずれも以前通っていた歯科医院で、むし歯治療の際にラバーダム治療を行っていませんでした。 ラバーダム治療の重要さを説明するとき、私がよくたとえるのが船底にあいた穴です。船の上で作業中、船底に穴があいたときです。底から船上におびただしい量の海水が入り込んできます。慌てて海水をかき出したところで、船底の穴を塞ふさがない限り、海水はいくらでも入ってきます。いずれは甲板(かんぱん)にまで海水が浸入し、船は沈没してしまいます。 大事なのは、まず穴を塞ぐことで、海水をかき出すのは、その後の作業です。