新卒エントリー数80%減から大逆転、ニコンの採用改革 「カメラだけじゃない」ブランディングストーリー
就職市場は“売り手市場”と言われて久しく、各社とも求める人材の獲得に苦労しています。株式会社ニコンも、新卒採用のエントリー数が最盛期の5分の1にまで落ち込みました。2021年12月に採用改革プロジェクト(以下PJ)を開始。採用ターゲットの明確化やターゲットに合った集客媒体の検討、訴求ポイントの見直しなどに取り組み、新卒採用のエントリー数はわずか2年で2.5倍に増加しました。ニコンはどのように採用の「大改革」を進めたのでしょうか。同社経営管理本部 人事部 採用課長の古市典昭さんにお話をうかがいました。
ミッションは採用数倍増
――2022年4月に発表した中期経営計画では、人材の「獲得・育成・活躍」の3本柱で人的資本経営に取り組むと明記し、採用改革PJが始動しました。PJ開始前の採用活動はどのような状況で、どんな課題を抱えていたのでしょうか。 中期経営計画では、人材の採用数を前年の2倍に増加することを決めました。しかし、これまでと同じ方法では、求める人材を必要な人数だけ獲得できません。そこで、先行して2021年12月に採用PJを発足させました。 PJが始まる以前の採用活動は新卒採用に偏重していました。新卒・キャリア採用を一つのチームで担っていたため、新卒採用をメインで行い、キャリア採用は後手に回っていたのが実情でした。 一方、新卒採用でも、カメラ市場の縮小に伴ってニコンの知名度が下がり、2022年卒の応募者数は最盛期の2012年卒と比べて5分の1ほどになっていました。また、新卒の採用者数は業績に応じて決めていたため、年度によってばらつきがあり、人員構成の年齢比率がいびつでした。長い間新入社員が配属されない部署もあったほどです。 こういった弊害を解消するため、2022年度以降は毎年コンスタントに新卒から150人ほど採用する方針となりました。このように、新卒採用・キャリア採用ともに見直しを迫られ、2022年4月からは新卒採用とキャリア採用を別の課に分け、双方を強化することにしたのです。 私自身、PJ開始時点では人材開発部に所属しており、従業員教育に携わっていました。2022年4月に新卒採用と採用ブランディングを担当する課長となり、PJを任されました。「大変な業務を任されてしまった」というのが正直な気持ちでしたね。 それまで採用活動には関わっていなかったものの、対面を中心とした採用スタイルと単発的な採用活動には課題を感じていました。新型コロナウイルス感染症が拡大する前は採用チームがさまざまな学校で開かれる対面イベントに奔走していましたが、大きな労力を要する一方で、アプローチできる学生の人数は限られていたんです。コロナ禍でオンラインツールが充実し、人材開発部で従業員研修をオンライン中心に切り替えた経験もあり、オンラインでの採用活動を積極的に取り入れ、ニコンの良さをより多くの人に伝えていきたいと考えました。 また、一つひとつのイベントに役割や意味を持たせ、ストーリー性のある採用活動にしたいと考えました。例えば、学生が業界研究を行う時期は、まず多くの学生にニコンのことを知ってもらう。その後はさまざまな媒体を駆使して学生が知りたい情報を提供し続け、「ニコンを受けたい」と思ってもらえるまで長期的に関わり続ける。こうした活動を年間通じて行うことで、最終的には「入社する会社はニコン以外考えられない」という、「ニコンのファン」になってもらえれば理想的だと考えました。