新卒エントリー数80%減から大逆転、ニコンの採用改革 「カメラだけじゃない」ブランディングストーリー
若手と一緒に訴求ポイント再考
――PJで取り組んだ主な施策を教えてください。 大きく三つの施策に取り組みました。一つ目は採用ターゲットの明確化です。当社の職種は事務系や技術系など多岐にわたり、技術系には機械設計や電気回路設計、ソフト・ファームウェア開発など多くの職種があります。それぞれの部署によって求める人物像が異なっており、採用担当に寄せられる要望もさまざまだったので、毎年のように選考基準を見直していました。 キャリア採用であれば入社後の担当業務が明確なので、その都度部署の要望に沿う形でもよいと思います。しかし、実務経験のない学生を選考する新卒採用では、ニコンの社風や伝統を脈々と受け継ぎ、次世代に伝えていく人材を定義しておく必要がある。そのため、求める人物像を改めて定義することにしました。ベースにしたのは、当社が掲げる三つの「心掛け」です。「好奇心」「親和力」「伝える力」を選考の評価軸に据えました。 二つ目は、ターゲットに合わせた集客媒体の検討・見直しです。まず、採用ホームページをリニューアルしました。当時のホームページはデザインや作りが古く、ストックフォトを多用していて、実際に働いている社員の様子がほとんど伝わりませんでした。掲載していた情報も「学生が何を知りたがっているか」という視点に欠けていました。そこで、デザインを刷新してコンテンツを充実させました。 例えば「[[新人カメラ>https://www.jp.nikon.com/company/recruitment/portal/newgraduates/rookie/]]」というコンテンツでは、ニコンの新入社員3人がカメラを手にして社内を巡り、気になったものを撮影・紹介しています。トップ画面には、若手社員がいきいきと働く様子を収めた動画も掲載しています。多くの学生にニコンの良さを届けるため、就職活動の情報収集に活用する学生が多いX(旧Twitter)など、SNSでの情報発信を活性化しました。 三つ目は、学生に訴求するポイントの再考です。人事や採用の部署はもちろん、コーポレートのブランディングを行っているデザインセンターや広報部を巻き込みながらPJを進めました。ニコンの魅力を改めて考えるディスカッションには、現場の若手社員にも参加してもらいました。まずは当社の強みである技術・品質。次に、若手が成長・挑戦できるフィールドであること。そして、一緒に働く人や環境です。採用面接で「ニコンは穏やかな人が多く話しやすかった」と言われる機会が多かったため、社風・人柄についても前面に出していくことにしました。 この時点では、これらの訴求ポイントは本当に学生が知りたいことなのか、確証が持てませんでした。そこで、順番が逆になってしまいましたがソーシャルリスニング調査を行い、若者が就職を検討する際に知りたがっている情報を確認。結果的に当初の想定が確信に変わりました。同時に、これまでいかに情報発信が足りなかったかがわかりました。中で働く自分たちにとっては当たり前でも、学生からは魅力的に映る点が多くあるのだという気付きにつながりましたね。 ――もっと発信すべきだと思ったのは、どんな情報でしたか。 例えばコアタイムのないスーパーフレックスタイム制度です。当社のフレックスタイムには始業時間や終了時間の定めがなく、育児などプライベートと仕事を両立しやすいので、新卒だけでなくキャリア採用の候補者にとっても有益な情報だと改めて認識しました。 FA制度についても情報発信が足りませんでした。同じ部署で一定年数勤務すると、社内のシステム上で自らの経歴やキャリア、志向を公開してオファーを募集できる制度です。オファーを送った部署とうまくマッチングすれば、現部署の上長の意向と関わりなく異動が可能で、従業員自身がキャリア形成の主導権をもてる仕組みです。 これまでも「ニコンには夏休みが2回ある」など魅力的な制度は伝えてきたつもりですが、キャリアの自律性や働き方に関する面は強くアピールしていなかったので、積極的に発信することにしました。