言うこと聞かないと「気合」。県史も認める佐渡金山の朝鮮人強制労働、その痕跡を歩く 世界遺産登録へ「負の歴史」をどう説明するか
「1939年に始まった労務動員計画は、名称こそ『募集』『官斡旋(あっせん)』『徴用』と変化するものの、朝鮮人を強制的に連行した事実においては同質であった」 【写真】海面から突き出した巨大な塔 その下には183人の遺体が閉じ込められている… 山口「長生炭鉱」の水没事故、82年たっても政府が調査に後ろ向きな理由
新潟県が1988年に発行した「新潟県史 通史編8 近代三」の文章だ。戦時中、佐渡金山などへの朝鮮人の強制動員・強制労働があったと記している。佐渡島を歩くと、あちこちに朝鮮人徴用工が働いた痕跡があった。証言も残っている。 日本政府は「佐渡島(さど)の金山」の世界文化遺産登録を目指しているが、こうした強制労働の歴史があり、登録は簡単に実現してこなかった。(共同通信新潟支局) ▽世界最高水準 佐渡島の金山は「相川鶴子(あいかわつるし)金銀山」と「西三川(にしみかわ)砂金山」で構成される鉱山遺跡だ。金の生産は400年以上前に始まり、17世紀には質、量ともに世界最高水準を誇った。採取から精錬までの手工業の遺構が残るのは珍しいとされる。 日本政府は2022年2月、世界文化遺産への推薦書を国連教育科学文化機関(ユネスコ)に提出した。しかしユネスコは、説明に不備があるとして推薦書を諮問機関イコモスに送らなかった。
政府は2023年に推薦書を再提出。イコモスは今年6月、「登録」に次ぐ2段階目の「情報照会」を勧告。「世界遺産登録を考慮するに値する価値がある」とした上で、江戸時代だけでなく「鉱業採掘が行われていた全ての時期を通じた、全体の歴史を現場レベルで説明・展示する」よう求めた。明示していないが、朝鮮人の強制労働問題を指すとみられる。 ▽露骨な差別意識 冒頭の新潟県史に戻る。県史によると、1942年発表時点で、新潟県内で働く朝鮮人は三菱鉱業佐渡鉱山が最多の802人いた。 家賃を徴収せず、日本語を教えるなどの「配慮」もあったとする一方で、労働条件を巡るストライキや、民族差別賃金を不満とする逃亡もあったと記す。 県史は、三菱側が「露骨な『劣等民族観』を隠そうともしなかった」とトラブルの理由を断じている。 旧相川町(現佐渡市)による1995年発行「佐渡相川の歴史 通史編 近・現代」も、同様の歴史を記録している。