考察『光る君へ』7話 勇壮な打毬試合に拍手!道長(柄本佑)に絶望するまひろ(吉高由里子)の姿にタイトル「へ」の謎に思い当たる
段田安則に震え上がる
花山帝をこれ以上騙すことはできないと、苦しい胸の内を吐露する為時に「長い間苦労をかけたな」と応える兼家。間者をやめたい気持ちを理解してくれたのか、右大臣……と思いきや。「もうよい。これまでといたそう」と微笑んだのち一瞬だけ、目に本心を宿らせる段田安則の芝居に震え上がった。下げていた頭を上げてあの目を見ても兼家が自分の気持ちを理解してくれたと思ったのだとしたら、為時はつくづく善良な人だ。 善良というのは本来よいことなのだけれど、権謀術数渦巻く宮廷の中心近くで生きるには危険すぎる。安倍晴明とは真逆の人物……。 そして、喜々として報告する為時を「東宮様がご即位されるときに官職を解かれてもよいのか!」と叱りつける宣孝(佐々木蔵之介)。 ですよね。 まひろだって、この選択がまずいということは理解しているのだろう。しかし父を尊敬している彼女は宣孝のように頭から否定する気にはならない。ましてや右大臣家は母の仇である。父を応援するしかないのではないか。ああ、世渡り下手な父とその娘よ。
心躍る打毬試合
倫子(黒木華)はじめ、姫君たちお誘いあわせの上、奮ってご観戦の打毬試合。 試合前、斉信招待席の最前列に堂々と座るききょう(ファーストサマーウイカ)。てっきり暫く出てこないのだろうなと思っていたので、2週連続の登場が嬉しい。こっそりとした「どちらの姫君かしら……」には頭をしゃんと上げて名乗り「斉信さまに『是非に』とお招きを受けましたの」。そして赤染衛門(凰稀かなめ)の「才気溢れるお方とのご評判」には、そう!わたくし、才気溢れてるんです!という笑みを返す。 さすがききょう、初対面の姫君がたを前にしても圧が強い。いけいけGОGО、ききょう。 打毬試合は勇壮で、心躍る楽しい場面だった。馬を操りながら長い打毬杖を扱う、これに興ずる貴族たちの姿を撮影するには俳優陣もかなり練習しただろう。演者の皆さん、この画面を成立させた制作の皆さんに拍手。 観覧席に座る意中の女子に視線を送る、熱く見交わす。さながら球技大会で張り切る男子とキャッキャする女子の如し。平安時代に現代のスポーツ観戦スタイルを落とし込んだ演出を思い切り楽しませてもらった。 ドラマ上、貴族の女性でも顔を隠さない演出ありきの観覧席だったが、実際に深窓の姫君が屋外に出た場合はどうだったであろうかと想像してみる。屋根のあるところで御簾の内からか、あるいは牛車の中からの観戦だろうか。倫子がお友達と乗る高級車の前簾からこぼれる、色とりどりの袖や裾。その周りには牛飼いの童や従者が控える。ききょうが乗って現れるのは、高級ではないが趣味のよさがうかがえる、すっきりとした車。隣につけた車に、姫君たちがざわついて「どなたかしら?」。従者に、あちらはどなたか聞いてまいれという申しつけがある。ききょうの従者より、清原元輔の娘です。斉信さまからお招きにあずかりましたのでという挨拶がある。言伝を聞いて高級車の中で、ふうん……と頷きあう姫君たち……。しかしこれでは、清少納言と赤染衛門という、平安超有名文学者同士が出会う楽しい場面は成立しない。遅れてまひろがやってきて、一緒に観戦という画面にするのも難しい。 映像作品、ドラマ的には、これでよかったのだ。