考察『光る君へ』7話 勇壮な打毬試合に拍手!道長(柄本佑)に絶望するまひろ(吉高由里子)の姿にタイトル「へ」の謎に思い当たる
「雨夜の品定め」part2
突然の雨と猫の小麻呂がもたらした、若い公達たちによる本音トーク。第3回レビューでも触れた、「雨夜の品定め」のオマージュpart2だ。というよりも内容がえげつない分、こちらが本番であった。 観戦に集った女性たちについて、まひろを地味でつまらん、あれはないだの、倫子までもったりして好みではなかっただの。容姿についての評価は勿論だろうが、まひろを一番傷つけたのは、 「女こそ家柄が大事だ」「家柄のいい女は嫡妻にして、あとは好きな女のところに通う」 これに同意を求められた道長から、否定の言葉が聞こえてこなかったことだろう。もうこれ以上聞きたくない。小麻呂のことも忘れて駆けだしたのも無理はない。あのあと、小麻呂は誰かが保護してくれたと思いたい。 ちなみに、小さく聞こえた公任と斉信の会話。 「斉信の好いたおなご(ききょう)は人妻だろ」 「えっそうなの?」 そうなの。清少納言は16歳頃に橘則光という貴族と結婚し、寛和元年(985年)時点では一児の母である。橘則光については『枕草子』で彼女自身が「こんな男性でした」と書いているので、是非お読みいただきたい。彼は『今昔物語集』『宇治拾遺物語』などにも逸話が残る人物なので、そうした物語と妻から見た顔を比べてみるのも楽しい。ただ、則光と清少納言の夫婦関係は長続きせず、別れてしまった。
だから『光る君へ』なんですか?
道長からの恋文を焼き捨てるまひろ。 道長さまから遠ざからねばならないと考えていた、この恋が叶うなんて思ってはいなかった。しかし、上級貴族の男たちの本音によって恋心が叩き潰されることになるとは。 私は『光る君へ』のタイトルについて、ずっと考えていた。「光る君……へ……」ってなんだろうと。誰かに、何かを伝えたいからこその「へ」。 第5回レビューでも述べたが、まひろ──紫式部がいずれ書くことになる『源氏物語』は、道長ももちろん読む。逃げた小鳥が出会いのきっかけとか、人生を大きく変える場所が六条の荒れ屋敷とか。これまで私が『源氏物語』のオマージュだなと見ていたものは、まひろが道長と経験した思い出で、それを物語に書き込んでる。他の誰にもわからないが、道長だけにはそれとわかる。……という、まひろから「道長へ」のメッセージとか、そういうことですか!? だから『光る君へ』なんですか!?? と、第5話の時点で、ひとり興奮していたのだ。紫式部と道長の史実の人生を考えれば、書き込まれるのは愛の思い出だけとはならないだろうともそのとき考えたのだが、まさか7話の時点で早速その事態になるとは思わなかった。つらい「雨夜の品定め」であった。