なぜ藤浪晋太郎は2カ月で人気者になったのか──現地で聞いた「フジは知的な選手」の背景とは
「ひとボケ入れる」コミュニケーション能力
オリオールズがプレーオフ進出を決めた9月17日、そしてア・リーグ東地区の優勝を決めた28日。クラブハウスで盛大に行われたシャンパンファイトでも、藤浪は中心人物の一人として大騒ぎしていた。そんな背番号14を、カノは「フジは日本人よりラテン系に近いような性格だ」と表現する。 こういった仲間たちの言葉からは、アメリカという新しい環境でも物怖じせず、第2(英語)、第3言語(スペイン語)で積極的に仲間たちとコミュニケーションをとる藤浪の姿が見えてくる。 「関西人ならではの明るさなのかわからないですけど、普段の晋太郎はチームメイトと冗談を言い合ったりしていることが多いです。両親の勧めもあって、英会話に子供の頃からなじんでいたのも大きかったんでしょうね」 周囲にはなかなか見えづらい藤浪のキャラクターを説明してくれたのは、通訳兼パーソナルトレーナーとして行動をともにする鎌田一生氏だ。藤浪が阪神タイガースに入団した2013年からの仲であり、渡米後も誰よりも長い時間を一緒に過ごしてきた。頼れるサポート役の鎌田氏から見ても、藤浪には相手との独特の距離感を保つコミュニケーション能力が備わっているのだという。
「真面目すぎてもその人との距離を縮められないじゃないですか。その点で晋太郎はグイグイいきすぎてもダメ、一方で話さなかったら距離ができてしまう、といったラインをわかっているんです。たとえば決して太っているわけではないダニー(・クーロム)を“デブ”と呼んでみたり(笑)。長く脚光を浴びてきた選手ですけど、プライドの高さみたいなのがまったくないのもいいんでしょう。自分がひとボケ入れることで場が盛り上がるのであればそれでも構わない、といった感覚を持っているのだと思います」 鎌田氏の言葉を聞いて、少々驚くファンもいるかもしれない。剛腕と長身、甘いマスクで高校生時代から常に注目を集めてきたスター。一般的な藤浪のイメージは、どちらかと言えばクールでとっつきにくいといったものではないか。ただ、チームメイトや関係者の言葉を聞く限り、実際の藤浪は聡明で、思慮深く、道化になることもでき、楽しむのが大好きな29歳のようだ。 「オリオールズはすごくいいチームです。オークランド(・アスレチックス)もいいチームでしたけど、このチームも自分が入りやすいように話しかけてくれた。溶け込みやすかったですし、いい環境でやらせてもらっています」 藤浪本人にチームの良さを尋ねると、同僚への感謝の言葉を繰り返し述べていた。実際にオリオールズが良い環境であることも間違いないのだろう。地元放送局MASNの番記者として取材するロック・クバコ氏は、オリオールズのカルチャーを「とてもウエルカムな雰囲気。他のチームから来た選手だろうと、マイナーから上がってきた選手だろうと、ファミリーの一人となり、誰もが歓迎される。チーム内に壁のようなものは存在しないんだ」と表現していた。そんな開放的なチームに、藤浪は最高のはまり具合を見せたのだろう。