「おいしい」って数字にできるの? 途方に暮れた研究者
「油脂」と「たん白」があれば満足だ!
齋藤:前者ですね。実は、かなり初期の段階で大きなヒントを得た本があります。『人類はなぜ肉食をやめられないのか――250万年の愛と妄想のはてに』(マルタ・ザラスカ著)です。父親をまねてヴィーガンとなった母親が、我慢できなくて夜な夜な冷蔵庫から出してきた肉を食べるという話から始まり、人類の進化まで話が展開するという、とても衝撃を受けた本です。まさに私の思想の原型となっています。メンバーにも紹介し、回し読みしました。 この本の中に、肉が人間をとりこにする要素として、うまみや脂肪、メイラード反応をあげており、うまみはたん白の存在を示していることから、油脂とたん白があれば満足感は実現できる、との思いに至りました。 余談ですけど、先ほどの我々の祖先が髄液を吸っていたという話は、とんこつラーメンを思わせますよね。骨からエキスを煮出ししていますから。 なるほど(笑)。とんこつラーメンのすさまじい満足感はそこにつながっているのかも。 齋藤:妄想は自由なので(笑)、人類共通の祖先が髄液を吸っていたのですから、案外そうなのかもしれません。調理をするのは人類だけ、といわれますが、我々は結局「動物性」と「調理(加熱)」がもたらすエネルギーの報酬系から離れられないんじゃないか、と僕は思っているんです。「これを食べることによって、自分たちは生き残れて、次の世代を残せる」みたいな。これは生き物としてすごく大事なことで、だから心の底からの満足感、ということにつながっている。そう推測しているんです。 説得力あるなあ……。しかし、肉を食べない文化もありますよね。 齋藤:はい。欧州のほうに行った人たちは、畜産とか、卵を食べたりとかして常に高脂肪、高たん白を好む食文化が生まれていきますが、一方でアジア、特に日本は農耕をするためには、当時の農機具に当たる牛とか馬とかを食べることはマイナスの影響が出るので、奈良時代には肉食の禁止令(※)が出ていて。 (※天武4年=675年に最初の肉食禁止令が発布され、約1200年後の明治4年=1871年に解禁されるまで肉食を忌避する文化が長期間続いた) 仏教伝来のためかと思っていましたが、そういう背景も考えられるわけですね。 齋藤:とはいえ、ホモ・サピエンスとして脳を維持するエネルギーは必要です。日本では、肉類に比べればどうしても物足りない面もあるため、それが「ダシを取る」ことの工夫につながったという見方もあるなと。 日本の食文化においてダシは重要ですね。 齋藤:はい、特にかつお節のダシですね。昆布も重要ですけど、かつお節はやはり和食にとってきわめて重要で。かつおは動物ですので、ここにも結構、満足感を与える要素があるのかなと思っています。 ●日本人はダシでリブートする ダシって、不思議な満足感がありますよね。自販機で売っているダシの缶(ホット)を見てそこまでやるかと驚いたことがありますが、でも気持ちは分かるというか。 齋藤:ダシがないと満足できないというか。 いまいち元気が出ないときに、おそば屋さんでそばを平らげた後、ダシをがーっと飲んで回復、ってありませんか。さっきのハリウッド俳優さんではないですが、再起動がかかる感覚。 齋藤:その「ダシで再起動」というのも同じことかもしれないです。そう考えると、我々も、普通の生活で結構「たん白と脂質」のブーストを感じる瞬間ってあるかもしれない。大豆にもダシにも、たん白・脂質が含まれます。例えば、意外かもしれませんが、かつおダシにもほんの微量の脂質が含まれることが知られています。 ダシブースト、ありそうですよね。 齋藤:ただ、繰り返しになりますが、まだこれは妄想ですよ。