「おいしい」って数字にできるの? 途方に暮れた研究者
齋藤:我々にしたら「何を分かっていて、こう言っているんだ?! 教えてくれ!」という(笑)。これ、深いんですよ。さらっとしたアンケート調査なんですけど、「おいしい、だけど物足りない」感覚を説明できる人はいるのかなと。 なるほど、で、どういうことなんでしょう。 齋藤:我々なりの考えはあります。もちろん実証も試みていますが、ここからは、すべて基本的に仮説としてお聞きください。 植物がおいしくない、という話じゃなくて、動物も植物も両方ともおいしいんだけど、動物性の食べ物にだけ感じる感覚があるらしい。我々はおいしさとは別にそれを感じているらしい。それがないと、「食べた! 満足した!」という気持ちに到達しないらしい。 ということは、我々が生き物として根源的に求めているのはそっちのほうじゃないか。「おいしさ」だけでは足りない。充足した気持ちになれない。つまり、食べたぞ! という満たされた気持ち、すなわち「満足感」を求めている。これを与える要素が、動物性にはあって植物性にはないのだろう、と。 むむむ。 ●アン・ハサウェイかく語りき 齋藤:この「満足感」の具体的な例じゃないかなと思っている、米俳優のアン・ハサウェイさんのインタビューがありまして。 ここでアン・ハサウェイが出ますか(笑)。 齋藤:はい、アン・ハサウェイさんは数年間、ヴィーガンだったんです。この方がたまたまサーモンを食べたら、脳が「コンピューターをリブート(再起動)したような感覚」になったと言っているんですね。 https://www.womenshealthmag.com/jp/food/ すごい表現ですね。 齋藤:「視界がはっきりして脳がリブートするような感覚」だった、それ以来野菜以外も食べるようになったと。これってずっと、僕らの言葉で言う満足感が足りない状態の食生活をしている人が、満足感の塊を食べて、「おいしい」という概念じゃない、味付けじゃない、体が根源的に欲するものがどーんと入った、そういう感覚を味わった。ということだろうと。 アン・ハサウェイさんは動物性の満足感の濃いやつを体験したんだろうと。 齋藤:そうです。そう考えたら、大豆ミートに味付けしたようなものだけではそこまで満足感は得られないだろうな、と、納得できました。 整理としては、これも仮説ですけど、動物性の食品って、おいしさに満足感がくっついているので、おいしいね、満足感があるねと感じる。植物性の食品は、おいしくする技術はもうできて、半分の方々がおいしいとおっしゃっているぐらいのレベルまでいっている。けれど、満足感の部分がなくて、だから物足りないと言われる、というわけです。 なるほど、満足感の重要性までは分かりました。しかしそれは具体的には味なんですか、匂いなんですか、あるいは別の、五感では分からないもの? 齋藤:これもまだ答えを持っているわけじゃないんですけど、いわゆる“味”ではないんじゃないかなと思います。 では何だと。