「おいしい」って数字にできるの? 途方に暮れた研究者
齋藤:油脂とたん白(※)の“ある種の状態”ではないかと。 (※不二製油グループ本社の「たんぱく」の表記) うっ、話が研究者っぽくなりましたよ。 ●「心の底から声が出る」ほどの満足感の理由 齋藤:「これこれの味が欲しい」というレベルの欲求ではなくて、もう心の底から求めているものだと。だから脳が再起動するような満足感が得られてしまうんだろうと。では、何で心の底から求めているかというところで、今度は人類の進化の話になるんですけど(笑)。 お。 齋藤:我々が進化を繰り返して「ホモ・サピエンス」になったのは20万年前といわれています。ホモ・サピエンスとそれ以前を分けるのは、大まかに言って「脳の大きさ」ですね。そして、脳が大きくなったということと、何を食べていたかということが深く関係している、という説があります。 ほうほう。 齋藤:チンパンジーと一緒に森の中に住んで果物を主食にしていた頃は、栄養分の中で糖質がメインだった。やがて氷河期が来て森林が縮小し、チンパンジーはそのまま森に残ったんですけれど、ホモ・サピエンスの祖先は外に出て雑食化していった。 その過程で、小動物、あるいは肉食獣の食べ残しの肉や骨髄の中の髄液を食べることを覚えた。そして火を使うことを覚え、より高い栄養価を得ることができるようにもなっていった。 肉食と火を使った調理、それで得られる高い栄養価が、脳の巨大化や、それを支える大きな身体や直立姿勢を可能にした。脳の巨大化は集団による狩猟や食べ物の分配といった社会性の獲得という、人間らしさにもつながっていった、と(※)。 (※参考:「霊長類研究 第76回日本人類学会大会・第38回日本霊長類学会大会連合大会 地球の未来と人類の肉食」https://www.jstage.jst.go.jp/article/primate/38/0/38_12/_article/-char/ja/「東京大学リベラルアーツ・プログラム 食の人類学・民族考古学-狩猟と肉」http://www.lap.c.u-tokyo.ac.jp/ja/theme_lectures/food/181010/) 齋藤:火を使うと、効率よく油脂とたん白が取れる。柔らかく、食べやすくなる。しかもメイラード反応(※)が起きて、おいしさという報酬がそこに生まれる。 (※糖とたんぱく質が加熱によって褐色に色づき、香ばしさを生むこと) 脳はとても燃費が悪い臓器なので、大きな脳を維持するには一日中物を食べてないといけないことになりかねないんですが、肉食によって油脂とたん白を一気に短時間で取れるようになると、脳にちゃんとエネルギーを回した上で、空いた時間でこれまでと違うことができるようになった。そこから社会性が生まれて、集団生活が可能になっていく(※)。 (※ナショナル ジオグラフィック「ヒトの脳は加熱調理で進化した?」https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/6990/) 面白いですね。 齋藤:人間にとっては肉を食べることは、生きる上でも社会を維持するためにも重要です。そこで「脳を維持するために肉を食べろ」という報酬系が、「満足感」の正体ではないだろうかと、思いついたわけです。 齋藤さんは、「満足感」の再現に成功したのちにこういう理由を考えられたのでしょうか。仮説としてこういう考え方があり、そこから「油脂とたんぱく」を試したのでしょうか。