諦めなかったアマチュア女子ゴルフの実力者たち 最終プロテストで念願の合格
喜びと安堵(あんど)感が心底にじみ出ている。女子ゴルフの最終プロテスト最終日、報道カメラマンの撮影に1人ずつ応じる合格者たちの表情だ。今年は26人。そのうち、初めて受験の資格を得られる高校3年生は2人だけで、他は複数回挑戦した末にクリアした。2回、3回、4回…。不合格のたびに心が折れそうになる。それでも諦めず、念願かなったアマチュア界の実力者3人、六車日那乃(22)、吉田鈴(20)、寺岡沙弥香(22)にスポットを当てた。(時事通信社 小松泰樹) 【写真】最終プロテストに合格し、笑顔を見せる六車日那乃 ◆合格率3.7%の狭き門 7、8月に6会場で行われた1次予選、9月に3会場であった2次予選を経て、10月29日から11月1日までの最終テストに臨んだのは予選免除者を含む105人。その約4分の1が難関を突破した。今年の受験者総数は695人だから、合格率で示すと3.7%だ。 最終テストの舞台は茨城県の大洗GC(パー72)。最終ラウンド、寺岡が通算10アンダーでトップ通過を果たした。ぎりぎりの合格ラインは8人が並んだ通算4オーバー、19位タイだった。1打及ばなかったのが7人。4日間、72ホールの中で、あのパットが決まったから、あれを外さなければ…。毎年のことではあるが、紙一重の差で残酷なほどに明暗が分かれてしまう。 ◆流れる涙が昨年と一変 六車日那乃 パー4の最終18番を終えた六車は、険しい表情だった。このホール、第2打をグリーン奥に外し、寄らず入らずのボギーで通算4オーバー。その時は「終わったな、また一年を無駄にしたのか…」と思ったという。何とか合格圏内に踏みとどまっていて、それは分かっていても「落ちてしまったような気持ちになった」。5組後の最終組がフィニッシュすると、19位タイに滑り込んでいた。 報道陣の取材に応じたその目には、第一声の前から光るものが見えた。感慨があっても言葉を止めることなく、「今年は悪いところ(順位)からも巻き返せるし、いけるかもな、と。期待も不安もあった」。その間、涙がほおを伝わった。 同じ涙でも、1年前のそれは真逆だ。岡山県のJFE瀬戸内海GCで行われた昨年の最終テスト。初日に11位につけながら、最後は35位に終わった。「一打一打が重くて…」。声を詰まらせながら語った一言は、合格できなかった選手の気持ちを代弁しているかのようだった。 ◆いろんな人に「ありがとう」 千葉県の麗沢中・高では2学年上に吉田優利、1学年上に西郷真央がいた。これまでツアーには何度も出て、今季を含めローアマチュアも複数回。2022年にアマに関する規則が変更し、選手が企業などから金銭的な援助を受けることが可能になった。六車にはいくつものスポンサーが付き、ウエアなどに複数のワッペンが付いている。 プロテストは過去に最終で3度屈し、2次予選で1度脱落。22年は合格に1打届かなかった。初挑戦の後は「(クラブを)振るのが怖かった。普通に打てるようになるまでが大変だった」と振り返る。早く結果を出して応援や支援に応えたいという願いも、重圧と背中合わせだったのか。「本当によかった。いろんな人に『ありがとう』と言いたい」。実感がこもっていた。 ◆執念の最終ホール 吉田鈴 吉田は慎重にラインを読んだ。パットのアドレスに入ろうとしたところで構えを解き、もう一度、カップまでの筋を頭に描く。最終日、9番(パー4)のグリーン。50位から出てインスタートの「裏街道」を回り、ここまでスコアを二つ伸ばして通算5オーバー。最終ホールで第2打をピン奥5メートルに乗せた。バーディーパットは「すごく難しかった」という下りのフックラインだ。 「このパットを決めたら通るかも」。後続は多いが、難コースだけにスコアを伸ばしてくる選手は、そうはいそうにない。「皆、(状況が)厳しくなるかもな、と思った。とにかく『入れるぞ』という気持ちだけで打った」。意を決してストロークすると、狙い通りにカップに吸い込まれた。 執念のバーディーにも、本人のリアクションはほとんどない。「上がった時は、でも落ちるよな、とも思った」。淡い期待と諦めに近い境地が、心中で交錯する。最終組が回り終わるまで、胸を締め付けられるような長い時間が過ぎた後、朗報がもたらされた。 ◆「お姉ちゃんに感謝」 世界アマチュアランキングで22年8月から23年6月にかけて4位を最高に1桁台につけるなど、地力がありながらプロテストでは苦杯をなめてきた。千葉黎明高3年生だった21年は最終で1打、22年は2打及ばず。昨年は10月上旬の2次予選止まりで、最終に進めなかった。下旬の国内ツアー、樋口久子・三菱電機レディースに出る姉の優利が、鈴にキャディーを依頼。優利は初日を終えた後、「キャディーの仕事をしながら学んでくれたら」と話し、「すごくいいキャディー」と褒めた。2次予選でつまずいた妹の傷心を和らげる意図が、どこかにあったのかもしれない。 迎えた今秋の最終テストは、第1ラウンドで7オーバーの79をたたいて90位。いきなり窮地に立たされたが、自分にこう言い聞かせた。「絶対に諦めない。それだけを信じよう」。2日目に49位まで巻き返した。だが、3日目は50位と停滞し、後がない状況に。それでも、初日の後に誓った信念が最終日、最終ホールのパッティングに凝縮された。合格が決まると早速、優利がインスタグラムで祝福。鈴は「練習に誘ってくれたり、連絡をくれたり。気遣ってくれたお姉ちゃんに一番感謝している」と喜んだ。