「北欧、暮らしの道具店」を運営するクラシコムのオフィスへ。なぜソリッドなデザインにこだわったの?|グッドカンパニー研究 Vol.10
ソリッドなデザインほど可変性が高い
横石:先ほどアアルトのスタジオにインスパイアされたというお話がありました。 多くのオフィスデザインは多様なニーズに応えようとする結果、多機能で装飾過多になりがちですが、青木さんはマイナスのデザインを徹底していらっしゃるように思えます。 青木:そうですね。こだわるポイントを造作のギミックではなく質感や光に絞ると、トータルの予算組みとしてはコスパが良くなったりしますし。それと、たとえばクラシコムのウェブサイトやアプリ、IRの資料を見ていただくと分かりやすいのですが、写真以外では色を使わないというルールがあるんです。 実は僕らのクリエイティブって、よくよく観察してもらうと極めてソリッドなんですよ。外から見ると優しそうとか、オーガニックなイメージがあるようで、それも間違ってはいないのですが、その印象をつくっている具体的なオブジェクトには、余計な色や形を入れない。 この感覚は全体的なクリエイティブのトーンでも、オフィスデザインでも共通していて、基本的にはどう引いていくかが議論になることが多いですね。 横石:あえてそうする理由は? 青木:単純に好きだということもありますが、シンプルに言うとソリッドで構成要素が少ないものって可変性が高いんですよね。 僕らの場合、雑貨からはじまって洋服、コスメ、コンテンツ制作と、事業自体の変化量が非常に大きいタイプの事業者だからということもあります。変化量が大きいからこそ、設計思想としてはソリッドにしておかないと過剰にゴチャゴチャしてしまう。 いろいろなものを入れる器としてのクリエイティブは、どこまで削げるか。削いだ上で強度のあるものがつくれるか、ということだと考えています。
クラシコムの組織論。組織の成長と変化のバランスをどう取る?
横石:器の話も出たところで、青木さんの組織論について伺いたいです。 組織が大きくなると変数が増えて、コントロールや管理がしづらくなったり、大変なことが増えたりしますよね。クラシコムはどんどん進化していて、従業員の数も増えているわけですが、そのあたりはどう捉えていらっしゃいますか。 青木:組織を難しくする決定的な要素として、「変化量が激しすぎる」というのが1つあると思います。変化はストレスなので、人間が正気で対応できる量には限りがある。ですから経営者としては、いかに組織の規模を急拡大させずに、ある程度高い成長を維持するかを考える必要があります。 それとリモートワークに関しては、よく「組織が見えにくくなる」といった話がありますが、僕はそうは思いません。むしろすべてのコミュニケーションがSlackに載るわけですから、経営者としては圧倒的に見えやすくなりますよね。 リスクがあるとすれば、オフィスにいる人といない人の間に分断が生まれる可能性があること。それを防ぐために、うちの場合はリモート会議ではカメラをオンにする、社内にいてもそれぞれ個別のPCから参加するといったルールがあります。 そんなふうに社外から繋いでいる人が疎外感を感じない工夫をすれば、リモートワーク自体に問題はないし、むしろさまざまな面で効率的です。 前提としてクラシコムでは、リモートワークという言い方ではなく、「その人の現場で仕事をしよう」と言っています。一応ルールとして伝えているのは、「新卒は慣れるまで出社を増やそう」「チームごとに、月に2回は机を並べて仕事をしよう」ということだけですね。 横石:シンプルなルールは組織を強くしますよね。「現場と自分の仕事をどんどんフィットさせていくと働きやすくなる」という提案にも聞こえます。 青木:僕らの場合、従業員の8割が女性で、その6割近くが未就学児の親だという事情も大きいです。これは男性もそうで、直近3年の平均で90日は男性育休を取得しています。 みんな忙しくて、仕事してる場合でもないんですよ(笑)。今は8時~19時のフレックス制で、基本残業はあまり許容されないし、むしろ厳しく問われるという社風です。